恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 そんな彼の輝かしいキャリアと未来に、自分の親が嫌がらせや圧力をかけて汚すような真似は、絶対にさせたくなかった。

(だから……これは、ただの時間稼ぎ)

 海が駆け落ちを無事に成功させ、自由を掴み取るまでの時間を稼ぐこと。
そして、妹が逃げ切ったら、私は一人で親からの処分を受け入れ、この会社を去る。
それが、自分にできる唯一の“正しい選択”なのだから。
自分の本当の想いに固く蓋をして、和香は覚悟を決めたように口角を上げた。

「……ねぇ、帆高くん。ひとつ、最後のお願いがあるの」
「なんですか」

 踏み込んできた彼の瞳を見つめ返すと、和香は言葉を紡いだ。

「来週末……私の婚約相手になる人が、実家に来るらしいの。だから…君も一緒に来てくれる?」

 息を呑む帆高の気配を感じながら、和香は優しく微笑んで言葉を付け加えた。

――もちろん、“恋人“という設定で、ね

 帆高は言葉を失い、無言のまま和香の目を見つめていた。
吸い込まれそうなほどに深く、吸い込まれそうなほど美しい、黒曜石のような瞳。
 その綺麗な瞳を見つめていると、胸の奥が張り裂けそうになる。

(……好きになんて、ならなきゃよかったな)

 心の中で、ぽつりと呟いた。
好きにならなければ、こんなにも胸が苦しくなることもなかった。
この瞳にずっと自分だけを映していたいと、届かない願いを抱いて愚かに傷つくこともなかったのに。
 沈黙ののち、帆高は低く、けれど静かな確信を込めて「わかりました」と言った。

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