恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
……―
…

 その後、気持ちを落ち着かせようと、たまたま誰もいない給湯室でコーヒーを淹れていた時のことだ。 背後からそっと近づく気配がして、振り返る。
そこに立っていたのは、帆高だった。

「……久東くん、」
「名前で呼んでくれないんですか?」
「……会社では、ダメでしょ」
「……どうかしました? なんか、顔色悪いですけど」

 二人きりになっても普段と変わらない様子の帆高に、和香はさりげなく先ほどの会議室での出来事を聞いてみようと思った。

「ううん、何もないよ。君こそ、何かあった?」
「いえ、何もないですよ」

けれど、帆高は何事もなかったかのように即座に首を横に振った。

(……何も、ない……?)

 あんな光景を見てしまったのに、「何もない」と嘘をつかれたことが、何よりも悲しかった。

「そっか。私はちょっと、寝不足で疲れてるみたい。あ、そうだ……今日は私、先約があって。ごめんね、一緒には帰れない」
「待ちますよ」
「……ごめん、いいから!」

 思わず強い口調が飛び出してしまい、和香は胸の中に痛い罪悪感を抱えた。 これ以上彼の顔を見ていると涙が溢れそうになり、一度も帆高と目を合わせられないまま、逃げるように給湯室をあとにした。

< 69 / 190 >

この作品をシェア

pagetop