恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 夜の静寂が降り立ち始めた街並みを抜け、和香は指定された高級レストランの重厚な扉をくぐった。
 店内は落ち着いた照明が落とされ、静まり返った空間にクラシックの旋律が静かに響いている。案内された奥の個室へ足を踏み入れると、そこにはテーブル挟んで優雅にグラスを傾ける男の姿があった。
神楽坂だった。

「お待ちしていました、和香さん」

 和香の姿を認めるやいなや、神楽坂は仕立てのいいジャケットのボタンを外し、唇の端に薄い笑みを浮かべて立ち上がった。
 その瞳の奥には温かな感情など微塵もなく、まるで手に入れた品物を検品するかのような、冷ややかで計算高い光が宿っている。

「わざわざお越しいただいて光栄です。どうぞ、お掛けになってください」
「……失礼します」

 対面する椅子に腰を下ろしながら、和香は膝の上でそっと両手を固く握りしめた。
 目の前に置かれた冷えたグラスの表面を濡らす水滴をただ見つめ、呼吸を整える。押し寄せる緊張と圧迫感で心臓が不規則に鼓動を打っていたが、ここで気圧されるわけにはいかなかった。

「単刀直入に伺います。一体、私に何の御用でしょうか」
静かに、しかしブレない視線を神楽坂へと向ける。

「そう急がないでください。まずは美味しい料理とワインを楽しみながら、ゆっくりとお話ししましょう。せっかくの二人だけの夜なのですから」

 神楽坂は余裕に満ちた仕草でワイングラスをゆらすと、楽しげに目を細めた。
 その一挙一動に漂う不気味なほどの余裕と、己の思い通りになって当然だと言わんばかりの態度に、和香の背筋を冷たい寒気が駆け抜ける。

「申し訳ありませんが、お食事に伺ったのではありません。私は……神楽坂さんとの縁談をお受けするつもりはありません。そのことを直接お伝えしに来たんです」
はっきりと告げられた拒絶の言葉にも、神楽坂は眉一つ動かさなかった。むしろ、子供の我儘を聞き流すかのように、くすりと鼻で笑ってみせる。
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