恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
「……まあ、いい。時間はまだいくらでもある」

 胸ポケットの中でスマートフォンが短い振動を刻んだ。画面を表示させると、秘書からの着信だった。応答ボタンをタップし、耳元に当てる。

「お電話口失礼いたします、神楽坂様。水瀬和香様の妹様……海様の潜伏先の住所を完全に特定いたしました。先ほどデータでお送りしましたが、水瀬様側にも共有しておきましょうか?」
「いや、いい。これはまだ、こちらのカードとして手元に伏せておきたい」
「承知いたしました」

 短く通話を切り、息を吐く。
 妹の海がおそらく男と駆け落ちをしたのだと察するのは、そう難しいことではなかった。 先日、水瀬家の母親から血相を変えて電話が入り、「海と連絡がつかない」と泣きつかれた。話を聞けば、最近誰かと密会していたのを咎めた直後だったという。
 直感した。逃亡の手引きをしたのは、間違いなく姉の和香だ。
だからこそ神楽坂は、すぐさま配下に命じて海の居場所を徹底的に洗い出させた。すべては、和香を自分との縁談から逃がさないための“絶対的な切り札”として使うためだ。
 通話を終了させた画面を伏せ、神楽坂はもう一度夜空を見上げた。
ただの夜空を見て「綺麗だ」などと感情を動かされたのは、一体いつ以来だろうか。 そして、その月を見上げるたびに、自然と和香の面影が鮮明に浮かび上がってくる。

「……どうかしているな、私は」

 どこか自嘲気味にふっと唇を歪めると、神楽坂は待機させていた黒塗りの送迎車へ、優雅な動作で乗り込んだのだった。

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