春雷ブロッサム

Bloom.0



「えええ?!慰謝料貰わなかったのぉ?!」

桜の花びらが春風に舞うお昼時。
社員食堂のド真ん中で同僚の逢坂舞子(おうさか まいこ)が叫んだ。

わたしは周りに注目されてしまった事に苦笑いを浮かべながら、「ちょっと舞子、声大きい」と舞子に注意をする。

舞子はハッとすると、大きな声を出してしまった口元に手をあて、「あ、ごめん」と言うと、こちらに向けられた視線たちに愛想笑いを振りまいていた。

「でもさぁ、不倫されて別れたんでしょ?離婚原因は藤川(ふじかわ)なんだから、慰謝料払わせれば良かったのに。不倫相手の女にも慰謝料請求できるんだよ?」

声のボリュームを抑えめにした舞子は不満そうな口調でそう言い、黒髪のボブヘアを耳にかけたあとで左手で頬杖をつく。
その左手薬指には、真新しい結婚指輪が光り輝いていた。

「だって、証拠集めるの面倒だったし。早く別れて、関わり持ちたくなかったから」

わたしはそう言って、自分で作って持参したお弁当に手を付ける。

その瞬間にふと思い出す、元夫の不倫を悟ったあの日の事を···―――



わたし冬柴雪乃(ふゆしば ゆきの)が元夫である藤川達也(ふじかわ たつや)と知り合ったのは、現在も働き続けているこの会社、敏感肌向けの香りの良いシャンプーやトリートメント、ボディーソープなどを開発する"株式会社ルポ·コンフォート"に入社し、初めて参加した親睦会だった。

部署は違ったが、同じ歳という事もあり、すぐに打ち解け意気投合し、連絡先を教え合ったのが始まりだった。
仕事帰りに食事に行って、お互い仕事の愚痴を溢したり、くだらない事で笑い合ったりする時間が楽しくて、当時のわたしにとっては大切なひと時だった。

そんなある日、達也の方から告白され、恋人同士になったわたしたちは、6年という長い交際期間を経て結婚した。
交際期間が長かった事もあり、結婚しても末永く一緒にいられる、きっと上手くやっていける―――わたしはそう思っていた。
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