春雷ブロッサム
わたしは子どもが欲しかった。
昔から"家族"というものに憧れが強く、わたしから達也に子どもについての話し合いを持ち掛けた。
しかし、達也から帰ってきた言葉は「もう少し二人だけの時間がほしい」だった。
既に年齢が30歳を過ぎていた事もあり、わたしは少し焦りを感じていたが、その時は達也の気持ちを汲んで「わかった」と返事をした。
それから2年、達也の気持ちを優先して待ったが、達也が子どもを持つ事に対して前向きになる事はなく、何なら達也はわたしに触れる事もなくなっていき、セックスレスになっていた。
達也は帰りが遅くなる事も多くなり、話し合いを持ち掛けようとしても「疲れてるから明日にして」と流され、話し合いすら出来ずに月日だけが流れ、いつの間にか結婚してから5年が過ぎてしまっていた。
「達也、お弁当箱出して」
夕飯後の片付け時に洗い物をしようと、わたしはソファーで寝転がりスマートフォンをいじる達也に声を掛けた。
我が家は共働きにも関わらず、基本的に家事は全てわたしで、毎日のお弁当作りもわたしの担当になっていた。
唯一、達也がやってくれる事といえば、気まぐれなゴミ捨てくらいだった。
それもわたしが集めてゴミ袋にまとめたものを玄関に置いておき、それを達也が気まぐれで出勤前に持って行くだけなのだけれど···―――
「はぁ〜···」
達也はわざとらしく溜め息を吐くと、面倒くさそうにソファーから身体を起こし、ソファー横に置きっぱなしにしていたランチバッグを持ち、仕方なさそうにキッチンまで運んで来た。
「ありがとう」
わたしがそう言ってランチバッグを受け取ると、達也はわたしと目も合わさず「風呂入って来る」と言って、バスルームの方へ歩いて行った。
(結婚当初は、"お弁当ありがとう"とか言ってくれてたのになぁ···)
そんな事を思いながら、わたしはバスルームへ入って行く達也の背中を見送り、それからランチバッグを開けた。
虚しい気持ちでお弁当箱を取り出し、ランチバッグを折りたたもうとする。
すると···
―――クシャッ
ランチバッグの中で何か音がした。
(ん?何?)
不思議に思いながら、わたしはランチバッグを開き、中を覗いて見る。
するとそこには、淡いピンク色の紙が二つ折りになり、転がっていたのだ。