想定外につき、対処不要
後日。俺は次のスケジュールを確認しようと、本社の自部署に向かった。
直ぐにデスクへ行ってから、ノートパソコンを開き、手帳と真新しいペンを手にした。
すると、隣の同僚が様子を窺うように声を掛けてきた。
「お疲れ……木崎、なんか変わった?」
「お疲れ。特に無いけど、どうして?」そう言いながら、俺は手帳に記していた。
「いや……気合い入ってるなぁと思って」
同僚はそう言ったが、何を指してるのか理解できず、身なりを軽く確かめた。紺色のスーツに少し柄の入ったネクタイ、ピンは差してないから、派手に見えることは無いはずだ。
そこで軽く背筋を伸ばすと、同僚が声を掛けてきた。
「高そうなのしてるな。ブランド品か?」
「詳しくは知らない。それより、君のほうが良い物着けてるし、似合ってる」俺はそう返し、メールの処理に取り掛かった。
「木崎に言われてもな……。じゃあ、俺は業務に行ってくる。またな」同僚の声に俺は顔も向けず、作業を続けていた。
すると、誰かが近づいてきて、直ぐに顔を向けると、上司が若い男性を連れて立ち止まった。そして、上司はデスクに置かれた物を見てから、こちらを向いて口を開いた。
「君も万年筆を使うようになったんだな」と感慨深そうに頷き、直ぐに「悪いけど、これからこいつに業務教えて貰える?」と言った。
「承知致しました」俺がそう応えると、若い男性が「おはようございます。岩谷です」と言って、軽く頭を下げた。
直ぐに上司は踵を返し、俺はノートパソコンを閉じて、手帳とペンを鞄に仕舞った。そして新人に声を掛け、自部署を抜け出し、駐車場の車に乗り込んだ。
そこから現場に向かい、俺がいつもの場所に立つと、岩谷も横に並んで佇んだ。暫く撮影を眺めてから、俺はトイレに行くと伝えて、その場を任せて現場を後にした。
トイレの洗面所に立ち、手を洗いながら身なりを確かめていると、岩谷が慌てて駆け込んできた。俺はその様子を見てから、時計に視線を移し、再び岩谷に戻した。
「咲山さんがどこかに行かれました。どうすれば……」
「心配する必要は有りません。下の階の売店で新商品を眺めている頃です」
そう答えながら、俺は現場に足を進めて行った。岩谷も後を追うように付いてきて、元の場所で静かに佇んだ。
すると、岩谷が声を潜めるように話し掛けてきた。
「咲山さん、帰ってませんよね?」
「大丈夫です。直ぐ戻ってきます」
俺が口にした瞬間、彼女は現場に入ってきて、撮影に溶け込んで行った。
それを見据えて、俺はこの日常が在ることを、漸く幸せだと感じていた。
そして、その想いをいつまでも忘れないよう、胸に秘めたまま、姿勢を正して佇んだ。
ー完結。
直ぐにデスクへ行ってから、ノートパソコンを開き、手帳と真新しいペンを手にした。
すると、隣の同僚が様子を窺うように声を掛けてきた。
「お疲れ……木崎、なんか変わった?」
「お疲れ。特に無いけど、どうして?」そう言いながら、俺は手帳に記していた。
「いや……気合い入ってるなぁと思って」
同僚はそう言ったが、何を指してるのか理解できず、身なりを軽く確かめた。紺色のスーツに少し柄の入ったネクタイ、ピンは差してないから、派手に見えることは無いはずだ。
そこで軽く背筋を伸ばすと、同僚が声を掛けてきた。
「高そうなのしてるな。ブランド品か?」
「詳しくは知らない。それより、君のほうが良い物着けてるし、似合ってる」俺はそう返し、メールの処理に取り掛かった。
「木崎に言われてもな……。じゃあ、俺は業務に行ってくる。またな」同僚の声に俺は顔も向けず、作業を続けていた。
すると、誰かが近づいてきて、直ぐに顔を向けると、上司が若い男性を連れて立ち止まった。そして、上司はデスクに置かれた物を見てから、こちらを向いて口を開いた。
「君も万年筆を使うようになったんだな」と感慨深そうに頷き、直ぐに「悪いけど、これからこいつに業務教えて貰える?」と言った。
「承知致しました」俺がそう応えると、若い男性が「おはようございます。岩谷です」と言って、軽く頭を下げた。
直ぐに上司は踵を返し、俺はノートパソコンを閉じて、手帳とペンを鞄に仕舞った。そして新人に声を掛け、自部署を抜け出し、駐車場の車に乗り込んだ。
そこから現場に向かい、俺がいつもの場所に立つと、岩谷も横に並んで佇んだ。暫く撮影を眺めてから、俺はトイレに行くと伝えて、その場を任せて現場を後にした。
トイレの洗面所に立ち、手を洗いながら身なりを確かめていると、岩谷が慌てて駆け込んできた。俺はその様子を見てから、時計に視線を移し、再び岩谷に戻した。
「咲山さんがどこかに行かれました。どうすれば……」
「心配する必要は有りません。下の階の売店で新商品を眺めている頃です」
そう答えながら、俺は現場に足を進めて行った。岩谷も後を追うように付いてきて、元の場所で静かに佇んだ。
すると、岩谷が声を潜めるように話し掛けてきた。
「咲山さん、帰ってませんよね?」
「大丈夫です。直ぐ戻ってきます」
俺が口にした瞬間、彼女は現場に入ってきて、撮影に溶け込んで行った。
それを見据えて、俺はこの日常が在ることを、漸く幸せだと感じていた。
そして、その想いをいつまでも忘れないよう、胸に秘めたまま、姿勢を正して佇んだ。
ー完結。


