想定外につき、対処不要
 次の日の午前中に二人で役所に行き、受付の窓口に届けを出した。

 その後で近所の写真館に赴き、結婚の記念撮影をした。だが、俺は表情が上手く作れず、何枚も撮り直された。しかし、隣に居る彼女のドレス姿を見て、自然と口角が上がっていた。

 そこで着替えてから撮影現場に向かい、彼女は撮影に溶け込み、俺はいつもの場所で佇んだ。

 時折スタッフが飲み物コーナーに立ち寄り、こちらを見てきて、目が合ったが、直ぐに逸らされた。

 なぜだ。スーツを着ていないせいか?いや、服装の合わせ方の問題かもしれない。そう考えたが、特に支障は見当たらないから、そのまま俺は前を見据えて、再び佇んだ。

 すると、豆田が現場に入ってきて、こちらを見るなり、近づいてきた。豆田は口元を緩ませていたが、俺の前に来ると、直ぐに戻して言った。

「おはよう、ございます。木崎さんって……まぁ、いいや。じゃあ」

 いや、待て。今、何を言い淀んだ?やはり、服装を指摘されたのかもしれない。そう思い、俺は身なりをくまなく確かめたが、どこかに穴が空いていたり、解れた部分などは無かった。では、顔に何か付いているのか、と考えたところで、彼女が目の前に立っていた。

「どうしましたか?」思わず俺が尋ねると、「お豆ちゃんの撮影が長引くから、帰っていいって」と彼女は言った。

「そうですか。では、家までお送りします」俺はそう言って、彼女を先に行くよう促し、現場を後にした。

 そして、彼女の家に着くと、彼女は「渡したい物があるから、付いてきて」と言って、車から抜け出し、歩いて行った。俺は直ぐにエンジンを止め、周りを見回してから車を降り、彼女の後を追った。

 エレベーターに乗り込み、部屋まで付いて行くと、彼女はドアを開けて促してきた。俺は足を進めて、玄関先で立ち止まると、彼女は靴を脱ぎながら、声を掛けてきた。

「そこで待ってて、直ぐ戻るから」

「承知しました」そう返してみたが、彼女の姿はリビングのほうに向かっていた。

 少ししてから彼女が戻ってきて、こちらへ紙袋を差し出してきた。直ぐに俺が視線を向けると、その口が開いた。

「良かったら、使って」

「ありがとう、ございます」俺が答えると、彼女は「ゴミがついてる、しゃがんで」と言うので、そのまま俺は腰を軽く下げた時、彼女の顔が近づいて、耳元で声が聞こえてきた。

「愛してる」

 その声を聞いた瞬間、彼女の唇が軽く触れた。俺が身を固めたままでいると、彼女は舌を出して、直ぐ引っ込めた。

 照れくさそうな表情を捉えていると、彼女がおもむろに口を開いた。

「いってらっしゃい。あなた」

「いってきます。璃乃」

 自然に口にしたところで、俺は踵を返して、部屋を後にした。そこから、車に向かって乗り込み、彼女から貰った紙袋を覗くと、小さな長い箱と、少し大きめの長い箱があった。

 中身を見ることはしなかったが、予想は付いていた。でも……。

 俺はこの先も彼女に振り回されることを確信していた。
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