ENFJホストは、30歳INFJフリーターの初恋でした。
《episode.1》 初恋の人に、採用されました
「……おらん」
大阪・繁華街。
煌びやかなネオンが夜の街を彩る中。
その一角に店を構える大手ホストクラブの代表室で。
晴間蓮(はれま・れん)。
__源氏名、宵護蓮(よいもり・れん)は、深々とソファに身体を沈めていた。
テーブルの上には、採用面接をした人間の履歴書が何枚も並んでいる。
そのどれもが、決して悪くない。
むしろ一般的な基準で言えば、優秀な人間ばかりだった。
けれど。
「……条件満たしてる奴、1人もおらんやん」
蓮は1枚の履歴書を指で弾いた。
求めているのは、ただのマネージャーではない。
広報ができる。
店の事務もできる。
ホストたちのスケジュール管理もできる。
会食にも同席できる。
必要なら身の回りの世話までできる。
トラブルが起きても慌てない。
なおかつ、代表である自分に遠慮せず意見を言える。
できれば車の運転もできてほしい。
ついでに。
口が堅く。
人を見る目があって。
店の人間関係にも配慮できて__
「……条件、高すぎません?」
向かいの椅子に座っていた顧問弁護士の女性__緑乃原(みどりのはら)みゆが、呆れた顔で言った。
「せやから困ってんねん」
「自分で言うてて分かってるんちゃいます?」
「分かってるけど、欲しいもんは欲しいやろ」
「欲張りなんですよ」
「うるさいなぁ」
蓮が唇を尖らせる。
その様子を見て、みゆはふっと笑った。
この男は、昔からこうだ。
自信家で。
人付き合いが上手くて。
欲しいものがあれば真正面から取りに行く。
一方で、店のことになると驚くほど細かい。
代表という立場だからこそ、誰か1人に負担を押し付けることを嫌う。
だからこそ、自分自身の仕事量も増えている。
「……で、私に相談したところで、私が人材派遣会社みたいに人を紹介できると思ってるんですか?」
「みゆ、謎の人脈めちゃくちゃあるやん」
「謎って何ですか。失礼ですね」
「いや、褒めてる」
「褒め方が雑なんですよ」
みゆは苦笑しながら、テーブルに置かれた履歴書を眺めた。
そして。
何気なく1枚をめくった瞬間。
ふと、ある女性の顔が脳裏に浮かんだ。
「……あ」
「ん?」
みゆは少しだけ黙った。
頭の中に浮かんだのは、1人の親友だった。
霞心由夏(かすみ・ゆか)。
30歳。
東京在住。
今はフリーター。
仕事はできる。
というより、
できすぎる。
「……1人、おるかも」
「ほんま?」
蓮の目が一瞬で輝いた。
「ただし、あんたの店やっていうことは言わんときます」
「なんで?」
「断られる可能性が高いから」
「なんでやねん」
「由夏、今の生活に特に不満がないんですよ」
「なら、なおさら無理やん」
「でも」
みゆはスマートフォンを取り出した。
「暇そうなんですよね」
「言い方」
「本人がそう言うてました」
画面には、由夏とのメッセージ履歴が表示されている。
⸻
《最近何してる?》
《何もしてないよ》
《仕事は?》
《普通にバイト》
《今日は単発?》
《いや、短期の最終日》
《転職しないの?》
《うん。別に困ってないから》
⸻
みゆはそのやり取りを見せた。
蓮は首を傾げる。
「……ほんまに人材なん?」
「あんたが求めてる条件、たぶん全部満たしてますよ」
「全部?」
「全部」
みゆは即答した。
そして、由夏に連絡を入れた。
店名も。
代表の名前も。
勤務先がホストクラブであることすら。
この時はまだ、何も伝えなかった。