ENFJホストは、30歳INFJフリーターの初恋でした。
それから数日。
またしても蓮は酒に潰れた。
「……代表、無理しすぎです」
「んー……」
前回と同じように。
蓮を家まで連れて行き。
靴を脱がせ。
ベッドに寝かせる。
水を用意する。
そして、必要なものを手の届く場所へ置いた。
「では、私はこれで失礼します」
踵を返した、その瞬間。
「……由夏」
「?」
腕を掴まれた。
「……明日、休みやろ」
「はい」
「なら……ここ、おったら?」
「……」
「帰らんでええから」
寝ぼけた声。
由夏の心臓が、跳ねる。
「代表……?」
「ここにおればええやん」
「……」
「同じベッドで寝よ」
「……それはできません」
即答だった。
けれど。
「やだ」
「……」
「帰らせへん」
蓮の手が、由夏の服を掴んだまま離れない。
「……代表」
「……」
「離してください」
「やだ」
完全に寝ている。
由夏は困り果てた。
無理やり振りほどくこともできる。
けれど、今の蓮は泥酔している。
転倒でもしたら危険だ。
「……仕方ないですね」
由夏はベッドの横に膝をついた。
そして。
ベッドを机に見立てるように、両腕を置く。
「……ここで寝ますから」
蓮は何も答えない。
由夏は小さく息を吐いた。
「おやすみなさい」
そう呟いて。
目を閉じた。
°⭐︎′**⭐︎・°*⭐︎
翌朝。
「……え?」
蓮が目を覚ます。
目の前に。
由夏がいる。
「……え、由夏?」
「おはようございます」
「なんで……?」
由夏はゆっくり顔を上げた。
「昨夜、代表が私の服を掴んで離してくださらなかったので」
「……」
「帰らせない、とおっしゃっていました」
「……」
「そのため、こちらで休ませていただきました」
蓮は頭を抱えた。
「俺……他に何言うた?」
「同じベッドで寝よう、と」
「…………」
蓮の顔が真っ赤になる。
「ごめん!」
「いえ」
「ほんまごめん!」
「大丈夫です」
そのとき。
蓮は、由夏の膝に目を留めた。
赤くなっている。
「……それ」
「?」
「膝」
「ああ」
由夏は自分の膝を見る。
「少し赤くなっているだけですので」
「俺のせいやろ」
「お気になさらず」
「いや、気にするって」
蓮は深く息を吐いた。
「……俺、酒弱いねん」
「はい」
「すぐ潰れる」
「そうなのですね」
「代表としてカッコ悪いやろ」
その声は。
いつもの蓮とは違った。
弱かった。
「……今回の事、誰にも言わんといて」
由夏は少しだけ目を見開く。
この人が。
こんな顔をするなんて。
「もちろんです」
由夏は優しく笑った。
「弱い部分があることは、悪いことではありませんから」
「……」
「むしろ、ご自身で苦手なことを把握していらっしゃるのは、大切なことだと思います」
蓮は黙った。
由夏は続ける。
「代表は、十分頑張っていらっしゃいますよ」
その言葉が。
なぜか蓮の胸に刺さった。
「……そっか」
蓮は小さく笑った。
「ありがとな」
「こちらこそ」
由夏も笑う。
その笑顔を見つめながら。
蓮は初めて思った。
__この人のことを、もっと知りたい。
仕事ができるから。
頼りになるから。
そんな理由だけじゃない。
いつも穏やかで。
誰に対しても優しくて。
けれど。
どこか一線を引いている。
その壁の向こう側にいる彼女は。
一体、どんな顔をして笑うのだろう。
何を考えて。
何に傷ついて。
何を好きになるのだろう。
「……由夏」
「はい?」
「今日、俺の仕事終わったら飯行かへん?」
「申し訳ありません。本日は予定がありまして」
由夏は小さく指先を握った。
__本当は、予定なんてない。
10年以上想い続けた、
大好きな人からいきなり誘われるなんて。
心臓が持たないから。
「そっか」
断られた。
なのに。
蓮はなぜか、笑っていた。
「じゃあ、また誘うわ」
「……はい」
由夏は小さく頷く。
その返事を聞いた瞬間。
蓮の口元が、ほんの少しだけ上がった。
「……約束な」
「え?」
「また誘うから」
そう言って。
蓮は、いたずらっぽく笑った。
「にっ」と。
子どものような笑顔だった。
「……っ」
由夏は、思わず息を止めた。
うわ。
やばい。
先輩。
そんな表情、しないで。
本当に。
心臓が持たなくなる。
高校生の頃から。
何度、この笑顔に恋をしただろう。
なのに。
大人になった今でも。
やっぱり、この人には敵わない。
そんな気持ちを必死に抑えて、
「……はい」
由夏は穏やかに微笑んだ。
その顔を見ながら。
蓮はまだ知らなかった。
目の前の女性が。
自分にとって、10年以上前から特別な存在だったことを。
そして由夏もまた。
自分が一生分の恋を捧げた相手と。
こんな形で再会することになるなんて。
夢にも思っていなかった。