同期の大井くんは、 長く付き合っている彼女がいるらしい

カフェへ行く代わりに

「今日も、かあ」

田沼りえは、
ジャケットを椅子の背にかけて、
自販機コーナーへと向かった。

いつものコーヒーを買って、
大きな窓が見える硬めのソファに座る。

「はぁ」
思わずため息がでた。

大学卒業後、東京へ出てきて入社したが、
定時で帰れた試しはない。

スマホを取り出して、
インスタのリールを開く。

『東京スイーツ』は眺めるだけに止まってる。

こんなはずじゃなかったのに。
もう、やめよっかな……。

「おつかれ、田沼」
自販機のピピっという電子音とかぶって、
同期の大井くんの声がした。

「おつかれー」
「疲れてんじゃん」
大井くんも缶コーヒーを開けながら、
私の隣に腰掛けた。

大井くんとは気安く喋れる。
長く付き合っている彼女がいるらしいので、
値踏みされるような視線もこない。
それがすごく安心して、心地いいのだ。

「もうカフェインも効かなくなってきたよ」
「それな」
大井くんが笑った。

「予算が通らなくって」
私はため息混じりに言う。

「取れたらおっきいやつなのにな」
「そうなんだよ」

ふと大井くんが、私の手元をのぞいた。

「このカフェ、行きたいの?」
「そう。でも、行けると思う?」
「……行けないよな、あ!」

大井くんが、
ポケットから小さな箱を取り出した。

「チョコ、やるよ」
「ありがと。強めの覚醒いただきました」
「あはは」
大井くんは笑うと、
「じゃあ、おまけでもう一個」と、
私の手に、小さなチョコを二つのせた。

翌朝。

忙しい夜をどうにか乗り越えても、
同じような一日がまた始まる。

朝ごはんを食べる暇なんてないから、
会社近くのコンビニに寄るのは、
いつものことだ。

でもふと、お菓子コーナで立ち止まった。

大井くんにお返し。
どうせ今日も遅くなる。

私は新発売のチョコレートを買った。

その日、
自販機コーナーで大井くんと会った時、
私は「あげる」と、そのチョコを渡した。

「お、強めに目覚めるヤツ」
「言い方!」
私は笑った。

「田沼はどんな味が好きなの?」
大井くんが聞いてきた。

「ミルク強めが好き」
「俺も」
「仲間じゃん」

その日から、チョコ交換がはじまった。
< 1 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop