ソルが降る日

5 静かな攻防

 撮影が終わる頃には、外はもう暗くなっていた。ソルは地下の駐車場へ向かう途中、足裏に硬い感触があった。なぜ、踏み出した足を戻せず、その事実を保持したのか。

――ただの、保留だ。

 待機していたレヴエルトのドアが静かに跳ね上がる。シートに身体を沈めた。

「ルカ」

 システムが起動し、モニターの光が走る。レヴエルトがスタジオを抜けると、明かりが背後へ遠ざかり、街灯の明かりが窓に映り込んでいく。

 信号で止まる。ハンドルに添えた手にこぶしの力が残っていた。

 ウインカーを出す。タイミングは半拍早かった。

 交差点を曲がる。加速しようとして、わずかに車体が左右に揺れた。

<今の踏みこみは、少し早かったですね>

「路面を確認」

 少しの間。

<路面に問題はありません>

 次の信号。停止線を、数センチ越えるが、ソルは前を見たまま、表情に変わりはない。

<記録しておきますか>

「不要だ」

 駆動音が低く続き、街灯の間隔がいつもより長く感じ、呟いた。

「動作領域に誤差がある。運転を交代するべきか」

<感知していません。現在の状態であれば、交代は不要です。>

「そうか」

 沈黙。

「……ログは不要だ」
<記録は残りません>

 速度は安定し、駆動音もハンドルの角度も、ようやく一定を保つ。

<修正、完了です>

 夜の道路は空いていた。走行音が一つの線になり、街の光が後方へ流れていった。

 半歩の感触はまだ、足裏に残っていた。ソルは視線を前に置いたまま、もう一度、ハンドルを握りなおした。

*

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