ソルが降る日
 ソルは顔を向けると、外に立っていたのはジフンだった。現場を抜けてきたのだろう。息は少し上がり、表情には人間特有のためらいが浮かんでいた。

――自分にはないもの。

「おい、ソル……」

 声は低く、仲間を案じる自然な調子だった。

「腕、見た。大丈夫じゃないだろ。病院、送るから」

 ソルはウィンドウを少し下げ、視線を向ける。

「自分で対応します。ジフンさんは、現場に戻ってください」

 拒絶は穏やかでも隙はない。ジフンは一瞬だけ言葉を探し、それから小さく息を吐いた。

「……分かった」

 ジフンは道を開けた。ソルはそれ以上何も言わずに再びエンジンをかける。

<接触対象を排除しました>

 ルカが淡々と告げる。

「排除ではない。僕が、立ち去るんだ……」

 ミラー越しに、こちらを向いたままのジフンが小さくなっていった。

<現在、修復を優先すべき状態です>

「帰ってからでいい」

 ミリを引き寄せたときの記憶が削除されず奥に残っている。心拍とは一致しない、あの不均一な揺れ。

「……ログは残すな」

<すでに保存領域外です>
<けれど、当該対象に対する反応パターンは保持します>

 ソルは何も言わなかった。

 レヴエルトは速度を保ち、夜の街を静かに抜けていく。

 境界は曖昧なままだ。このままでいい。これ以上は進まない。

*

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