ソルが降る日

13 静かな同乗者

 夜の道路は空いていた。ランボルギーニ・レヴエルトは一定の速度を保ち、街の灯りはフロントガラスを流れていく。外界の音は遮断され、車内には低いエンジン音だけが規則正しく続いていた。

 ソルはシートに身を預け、ハンドルに手を添える。疲労の色を見せることなく、自動運転で走行していた。

<ルートを変更します>

 ルカの声は平坦だった。理由は添えられず、それが最適と判断した。ソルも応じる言葉なく、受け取る。車は四輪で路面を捉え、進路を変える。減速の気配はなく、最初からその道を走っていたかのような、自然さだった。

<室内温度を調整します>

 ルカは淡々と、レベルを下げる。ソルの呼吸は深くなる。

「……ありがとう」

<どういたしまして>

 目を閉じると、現場の光と音が、ゆっくりと遠ざかっていく。内部のどこかに残る、名前のつかない感覚だけが、まだ静まりきらない。撮影の休憩時間、ミリはジフンとどこかへ出かけたのか。あの時の笑い声が離れない。

<次の予定まで、十五分の余裕があります>

「……そうか」

 十分だ。ルカがいれば、マネージャーはいらない。ハンドルの先ではなく、ダッシュボードの奥を意識した。ルカの中枢。全ての記録と判断が積み重なる場所。自分の記憶データとルカがいれば、よかった。

――今までは。

 レヴエルトは夜の街を滑るように走り続ける。中で交わされる沈黙の扱い方は、誰も知らない。

「今日は、長かったな」

<記録上は、平均的です>

 事実だけの返答。けれどその直後、モーターの駆動がわずかに緩められる。理由は示されず。レヴエルトは一定の速度で走り続ける。

 ソルの沈黙に、無理なく寄り添うように。

 それがルカの当然の役割であるから。
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