悪役ヒロインのはずが、秘密の我が子と共にハッピーエンドを手に入れました

プロローグ

「人は善悪がハッキリした、わかりやすい物語を好む。明確な悪役をひとり用意すれば、バカげた噓でも呆れるほどあっさり信じてしまう」

 それが、百瀬紬葵の養父である百瀬剛彦の口癖だった。
 両親を亡くした紬葵を引き取った、母方の親戚である百瀬家の者にとって、庇護してくれる人のいない幼い紬葵は、まさに〝悪役〟を押し付けるのにうってつけの存在だった。
 それは紬葵の母親と百瀬夫人が一卵性双生児だったため、同い年で紬葵とはいとこの関係にある沙也香と紬葵の容姿がよく似ていたことも災いしていたのだろう。
 幼い紬葵を守ってくれる人はなく、紬葵は同い年で、もとはいとこの関係にあたる沙也香に数々の嫌がらせを受けた。
 優秀だった紬葵の母へのコンプレックスをこじらせていた母の影響もあり、沙也香は、紬葵になりすまして悪さをし、その罪を紬葵になすりつけるという意地悪を繰り返していた。
 もちろん少し冷静に考えれば別人とわかる。
 だけど沙也香の両親が結託して沙也香の噓を擁護して、声高に悪いのは紬葵だと主張するので、周囲は混乱するばかりだった。
 そして最後は、自分が面倒ごとに巻き込まれるのを避けるためにも、百瀬夫妻の噓を信じたことにしてしまう。
 幼い紬葵に、それを止める手立てはなかった。
 そして気が付けば、世間の紬葵に対する評価は、『引き取ってくれた養父母を困らせる厄介者』という扱いになっていた。
 ずいぶん長い年月そうやって過ごしてきたから、紬葵自身、自分の名誉を取り返すことを諦めていた。
 だけど桐宮綾斗は違う。
 紬葵にとって初恋の人である彼は、見え透いた噓に流されることなく、運命が引き寄せるようにして再会を果たした紬葵を信じてくれた。
 そして紬葵の人生を取り戻してくれたのだった。

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