婚約破棄予定のはずなのですが、悪行もしていない、没落もしていない、嫌われてもいない?どうやって破棄してもらえばいいのでしょうか。

医務室に着くと、それぞれ治療を受けた。カイゼルもそうだが、ルシアナも小さな切り傷をいくつか負っていた。
「すまない。僕がもっと早くに動いていたら」
「いいえ!助けていただけただけで感謝しております」
(だってシャンデリアが落ちるまで離れた場所に居たわよね)

あの距離にいて、どうやったら間に合ったのか。

その後、またもルシアナを抱いて運ぼうとするので、丁重にお断りした。これ以上アカデミーをお姫様抱っこで闊歩されては溜まらない。

馬車までのエスコートは断れず、ルシアナとカイゼルは馬車で別れた。
今日から長い休暇に入る。ルシアナは安堵していたが、カイゼルの表情は暗い。

「こんなことがあって心配だから、また会いにいくよ」

ルシアナは返事をせず、笑顔で手を振った。





❉❉❉❉❉❉

オルテガ侯爵邸。ルシアナは自室に戻ると、すぐに侍女を下げらせた。
羊皮紙と羽根ペンを取り出し、覚えている限り出来事を箇条書きにする。

(私が死ぬのは、物語の終盤だったはず)

シャンデリアが落ちる事件は物語の終わり頃だ。
男主人公のカイゼルとルシアナは婚約者だが、当時事業が傾いていたザカリー公爵家と、オルテガ侯爵家で取引された政略婚。その後立場は逆転する。
ザカリー公爵家の鉱山で金が見つかり経営が順調になったのに比べ、オルテガ侯爵家の事業は次々と失敗し、経営破綻寸前に追い込まれた。―そこから、物語の舞台が始まる。アカデミーに入学したカイゼルとエリィが運命的な出会いを果たし、カイゼルはルシアナとの婚約解消を望んだ。

(でも、金銭面で援助を受けてたオルテガ侯爵家はなんとしてもザカリー公爵家との縁を繋ぎたかった。ルシアナもカイゼルが好きだったし) 

それからルシアナはエリィに対し、嫌がらせをしたり脅したり、あらゆる方法でカイゼルから遠ざけようと画策する。

(あのパーティーでは、ルシアナがした悪行が暴かれ、逃げようとしたルシアナにシャンデリアが落ちるのよ)

そして死ぬ間際に、ルシアナはカイゼルとエリィに謝罪する。
嫉妬に狂ってしてしまった。申し訳なかったと。


(カイゼルとエリィは結ばれるけど、何故かカイゼルがオルテガの借金を肩代わりして返済してくれるのよね。おかげで家門の没落は免れたって書いてあったわね。婚約者がいる身でエリィと結ばれたから、罪悪感でも感じたのかしら)


兎にも角にも、物語を正常に戻さねばなるまい。【エリィの真実】は前世のルシアナの愛読書だ。何度も擦りきれるほど読み、もう1冊買ったほど。

(エリィも、カイゼルもどちらも好きなキャラだった。幸せになる2人を見届けれるなんて、なんて役得なの)


書き出したノートを閉じ、ルシアナはベッドに移った。明日から忙しくなる。2人の幸せな姿を目に焼き付けたら、私も幸せになりたい。
(父の事業を手伝って、借金を自分で返しましょう。明日お父様に色々聞かなきゃ····)
記憶が戻ったハードな一日だった。ルシアナの瞼は重く、そのままぐっすり朝まで眠った。

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