婚約破棄予定のはずなのですが、悪行もしていない、没落もしていない、嫌われてもいない?どうやって破棄してもらえばいいのでしょうか。
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「ルシアナ?もう大丈夫なのか?」
父はたくさんの書類に囲まれ、書類の山と書類の山からルシアナを見つめた。
「はい。ご心配おかけしました。·····お父様、お忙しそうですね」
「ああ、この時期はどうしてもな。決裁するものが山程ある」
やつれた様子で言う父に、ルシアナはこれまた実直に聞いた。
「か、傾いているのですか?我が家の事業は」
「なに?」
父である侯爵は、眼鏡を指であげながらルシアナを見上げた。
「どうした?だれがそんな事を。我が家が傾いているかだと?」
ルシアナの喉がごくりと鳴る。
(ど、どうなの?)
「ははは。そんな訳がない。今や皇都の家門でうちの事業が1番波に乗っている」
侯爵は軽快に笑った。
「――と、数年前は危なかったがな。今では笑い話だ。しかし、かと言ってここで胡座をかいてはいけない。常に備えて置くことが大事だからな」
「そ、そうなのですね。安心しました」
ルシアナの震える声を聞き、侯爵は立ち上がった。ルシアナの前まで来ると、頭にぽんと手を置いてくれた。
「忙し過ぎてお前の見舞いが疎かになってしまったな。すまない。怖い想いをしただろう」
ルシアナは目頭が熱くなるのを感じながら、心の中では焦りを感じでいた。
(これはもう、私の読んで知っている侯爵とは別人だわ。娘に、ルシアナにこんなに愛を顕にするなんて)
【エリィの真実】でのオルテガ侯爵は、娘を家門の道具としか見ておらず、政略結婚を強いた。優しく接していた描写などなく、撫でるなんて以ての外だ。
「明日、カイゼル卿が見舞いに来ると連絡があったぞ」
(来るとは言っていたけれど、明日なんて····ん?)
「卿?」
「変か?娘の婚約者とはいえ、騎士の称号を持っているからな」
―騎士?もはやこの世界は本当に【エリィの真実】の世界なのか?登場人物の名前しか一致してない。この時点ではカイゼルはアカデミーの生徒でしかなかったはずだが。
「私は明日留守にしているから、彼にはよく礼を言っておいてくれ。我が家の名誉と、娘の命まで救われるとは。数年前に我が家の事業が難を逃れたのも、彼が居てこそだからな」
「どういう····」
「前にも話しただろう?彼の助言がなければ我が家は没落していたかもしれないほど、財政難だった。彼がお前の婚約者で、本当に頼もしい限りだ」
開いた口がふさがらないルシアナを見て、侯爵は心配そうに言う。
「ルシアナ?今日はやはり元気がないな?もう寝なさい。部屋まで送らせよう」
執務室の前に居た騎士と共に自室に戻り、ルシアナは机の引き出しからノートをひっぱり出した。
書き連ねた項目に、次々とバツをする。
(記憶が戻るのが、もう少し早ければ)
これから自分が何をすれば物語が正常に戻るのか。
「うぅ」
小さく呻き、ルシアナはベッドに入った。
(私とカイゼル、エリィはどうなってしまうの)