今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~

姉の陰謀

「やってらんないわ!」

 開いた玄関から、一卵性の双子の姉である藤沢(ふじさわ)舞(まい)の怒り声が聞こえてくる。続いて響いてきたのは、荒々しい足音。

 今日は両親と共に、婚約予定の相手との顔合わせに出かけていたはずだけど……と、思いながらキッチンから顔を出した。
 この荒れ具合は、上手くいかなかったのだろうか。

「まあまあ、舞。とりあえず、落ち着こうか」

 リビングに向かいながら、父が舞のご機嫌取りをする。が、舞はフンっと顔を背けてしまった。

「ああ、唯(ゆい)。お茶をお願いね」

 最後に入ってきた母が、私の存在に気づいた。

「はい」

 年明けから数日、例年以上に気温の低い日が続いている。外はかなり寒かっただろうと、温かい飲み物を三人分用意した。

 お盆を手に両親らが集まるリビングへ行くと、舞はさらにヒートアップしていた。

「花嫁修業ってなに? 古すぎでしょ。しかも、一年間も! 何時代の話かっていうの」

 舞が怒りに任せてテーブルをバンっと叩く。思わず倒しそうになったカップを、慌てて掴み直した。

「まあ、高宮(たかみや)はもともと老舗旅館から始まっているんだ。歴史というか、しきたりを重んじる傾向にあるんだよ」

 父の言葉に、そういうことかと納得する。

 舞のお相手は、ホテル経営や観光業など手広く営む大手企業【TAKAMIYA RESORT】の御曹司、高宮蓮。

 TAKAMIYA RESORTは、蓮さんの曾祖父が立ち上げた老舗旅館【白鳳亭(はくほうてい)】が始まりだ。白鳳亭の繁盛を足掛かりに都内で複数の旅館を経営し、今では国内外でホテル経営を展開するほどの規模になっている。

 蓮さんは傘下のメイン企業である【高宮ホテルマネジメント】の社長に就任しているが、いずれはグループを率いていく人だと聞いている。
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