今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~

疑惑の婚約者 SIDE 蓮

「あらためまして、藤沢舞です。どうぞ、よろしくお願いします」

 ぎこちない笑みを浮かべ、震える手を握りしめる〝自称〟藤沢舞を見下ろす。明らかに彼女は、怯えているようだ。だから「君は誰だ」と言いかけたが、ひとまずのみ込んだ。

 顔や背格好は、たしかに見合いをした藤沢舞と瓜二つだ。
 目の前にいる女性から視線を外さないまま、記憶の中の藤沢舞とさらに比べる。

 あのときの女性は、いかにも即席で染めましたという違和感のある黒髪だったはず。場にそぐわない派手なメイクに、着ていた和装に似合わない長く派手に飾り付けられたネイルチップがやけに目についた。

 若い女性なのだから、これくらいは普通だろう。
 しかしさすがにあの場では、常識を身につけられていないと評価されても仕方ない。両親は、思わず眉を顰めていた。

 一応、こちらから持ち掛けた縁談だ。うんざりしつつも、ひとまず一年間は様子を見ようと話しを進めた。まあ、そこまでもつかどうかは甚だ疑問だが。早々に藤沢サイドから辞退を申し出てくることになりそうだが、形だけ取り繕えられたらそれでいい。

 見合いの日の出来事を思い出したせいで、苦々しくなる。それを振り払い、あらためてやって来た彼女に意識を戻した。

 一度も染めたことがないような艶のある黒髪は、その感触を確かめたくなるほど滑らかで綺麗だ。指先まで手入れは怠っていないようだが、爪は短く切りそろえられている。化粧は薄付きで、シンプルな服装とともに好感が持てた。

 見合いのときと比べたら、印象のよさは雲泥の差だ。

 来てしまったものは仕方がないと、予定通り室内に促した。

 真面目そうに見えるが、どうせ彼女も母による花嫁修業に早々に音を上げるだろう。これまでも数人の女性がやってきたが、一カ月もたなかった者もいた。

 いい加減、俺に結婚させたかった母は、今回に関してはあらかじめ相手との同居まで命じてきた。
 これまでさんざん異性に悩まされてきたこともあって辟易するが、結婚や後継ぎをもうけることの必要性はわかっている。夫婦になれば一緒に住むことになるのだからと、諦めの気持ちで同居を受け入れた。
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