今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「妻が料理上手だというのも、いいものだな」

 蓮さんがそんなことを言うから、ドキドキと鼓動が速くなる。

「つ、妻……い、いえ。キッチンに立つことが多くて、慣れているというだけなので」

 婚約者としてここにいる以上、彼の認識では私はいずれ妻となる存在なのだろう。
 そんな未来を想像して、つい胸を高鳴らせた。

 けれど……と、胸もとに手を当てて、昂る気持ちを抑える。

 彼と本当に結婚するのは、私じゃない。

「いや。これだけ作れるのなら、たいしたものだ」

「……ありがとう、ございます」

 最近は蓮さんとの関係も好転していたから、気が緩んでいたのかもしれない。
 ずっとやりたかったことを学ばせてもらえる上に、私を妨害して貶める舞がいない。姉の話しか聞かない両親に、理不尽に責められることもない。
 だからここでの暮らしは、私にとってずいぶんと居心地がいい。

 蓮さんの隣にずっといられたらいいのに……。

 叶わない願いを抱いてしまう自分に驚いて、手を握りしめる。
 蓮さんと暮らす未来など私には永遠に訪れないものだと、淡い希望を慌てて打ち消した。






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