今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 俺に背を向けて、靴をそろえる彼女の様子をつぶさに見つめる。

 見合いのときの様子から、藤沢舞は左利きだと思われた。母も『利き手は左なのね』と、後でこぼしていたくらいだから間違いない。
 しかしこの女性は、右手で靴をそろえている。

 もてなすつもりはなかったが、ひとまず椅子に座らせて飲み物出してみる。すると彼女は、伸ばしかけた右手を引いて左手でコップを持つという、奇妙な動きを見せた。

 この女性は、藤沢舞ではない。一連の仕草に、ますますそう確信を深めた。

 両家の顔合わせの場には姿を見せなかったが、藤沢舞には双子の妹がいたはずだ。この女性は妹の方なのかもしれないと、すぐに察しがついた。

 少しおどおどとしている目の前の女性は、決して友好的に見えない俺と気丈にも視線を合わせてきた。

 悪いが、甘い顔を見せる気はない。
 だが、顔合わせの席で傲慢さを隠しきれていなかった、あの藤沢舞が来るよりはずっといいのも本音だ。
 再び別の女性と顔合わせをさせられる煩わしさを思えば、入れ替わっていようが藤沢家の人間ならば問題ない。

 控えめで遠慮がちなこの女性なら好都合。俺の邪魔はしないだろうと、別人だと指摘をせずに向き合うことにした。

「高宮蓮だ。君はこれから、ここで一年間俺と暮らしてもらう」

「はい。よろしくお願いします」

「最初に言っておく。この縁談に、恋愛感情は必要ない。俺は妻という存在と、後継ぎが必要なだけだ」

 こんな言い方をしたら、帰ってしまうかもしれない。
 彼女はわずかに顔をこわばらせたが、変に期待をさせたくはないからかまわない。結婚後の生活を考えたら、ここでの線引きは重要だ。
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