今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 少しして、カタリと椅子を引く音が響く。

「ま、舞?」

 立ち上がった彼女が、向かいに座る私の隣で立ち止まる。そうして、足下のかごに置いてあった私の荷物を奪って席に戻った。

「ちょ、ちょっと、返して」

 私の制止を聞くはずもなく、遠慮なく中身を暴かれる。

「なに、これ」

 テーブルに取り出したのは、さっき購入したばかりの出産に関する本だ。

「あなた、まさか」

 勢いよく顔を上げた舞が、私を睨みつける。それからさらに中身を漁り、母子手帳を見つけ出した。

「くっ……あはは」

 それらを前に、舞が笑い出す。

「偉そうに私に指図しておいて、唯だってあの男とやることやってんじゃないの」

 言い返すことなど、できるはずがない。

「腹が立つけど、仕方がないわね。だって私たち、同じ顔をしているんだもの。あの男が堕ちるのも無理はないわ」

「ち、ちが……」

 蓮さんは、外見で気持ちを動かす人じゃない。中身に惹かれたのだと、彼は私に繰り返し言ってくれた。

「でも、妊娠したってどういうこと? さすがにそれは見逃せないわ」

 きつく睨みつけてくる舞に、体を縮こませる。

「あの男は、知ってるの?」

 うつむき、力なく首を横に振る。

「ふうん」

 舞が爪でテーブルをとんとんと叩く。急かすようでいて責めるようなその音が、やけに耳につく。

「その子ども、おろしなさいよ」

「なっ」

 迷いなく言いきる彼女に、思わず顔を上げる。

「当然でしょ? 結婚するのは私よ。唯があの男の子を妊娠して、どうするっていうのよ。まさか、この縁談を奪う気?」

「そんなつもりは……」

「そうよね。もともと、私が結婚する予定だもの。あれほどの男はなかなかいないわ。さらに条件の相手が見つからない限り、唯に譲るわけがないでしょ」

 譲るとか、蓮さんはものではない。しかも、高宮家はうちより立場が上だ。
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