今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「蓮さんの結婚相手には、いろいろのことを求められるの。着付けだけじゃなくて、手話や英会話も教えてもらっているわ」

「大変そうね」

「そうじゃなくて。結婚した舞が、なにもできないでは困るの。あなたも、ちゃんとレッスンを受け――」

「私に説教する気?」

 鋭い視線を向けられて、怯みそうになる。

「ち、違うわ。でも、蓮さんもお義母様も本当によくしてくれているの。舞には、彼らに対して誠実であってほしい」
彼女の行動を見過ごすわけにはいかず、必死に伝える。

「なあに、唯。ずいぶんあの男に肩入れするのね。そういえば、料理を作っているとか言ってたし。私のために健気に振る舞ってるなんて、ご苦労様」

 まったく、ありがたがってなんていない。その目は、余計な事をするなと言っている。

「いいことを教えてあげる。藤沢舞は、高宮家で花嫁修業をしているの。それに対して、できの悪い双子の妹の唯は、仕事もせずに男漁りを繰り返しているの。退職の理由も、遊びたいためだったりしてね」

 ニヤッと笑った彼女に、嫌な予感がする。

「あなた、まさか私の名前を騙っているの!?」

 舞から明確な返事はない。でも、さらに笑みを深めた彼女を見れば、その通りだとわかってしまう。

「そんな……」

「だからね、安心してよ」

 安心できることなど、なにひとつない。
 名前を使われていることも信じられないが、たとえ私だと偽っていたとしても舞が遊んでいるのは事実。

「お願いだから、蓮さんに誠実でいて」

 私のことはどうだっていい。
 けれど身を粉にして働く彼を、こんなふうに欺くなんて許せない。

「蓮さんを裏切るような真似はしないで」

 悔しさに、涙が滲みそうになる。

「やけにあの男に肩入れするのね」

 雰囲気の変わった舞に、小さく肩が跳ねる。疑うような目を向けられて、耐えきれず視線を手もとに落とした。
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