今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「証拠もすべてそろっている。唯さんのせいにして言い逃れるなど、もう通用しない」

「ひ、人のことを勝手に調べるとか、犯罪じゃないの!」

 喚く舞を、もう気に留める人間はいない。

「藤沢社長、試しに舞さんに着物の着付けをさせてみたらいい。そもそも、そこから嘘だったとわかるでしょうから」

「ま、舞」

 できるんだよな?と、父親に視線で問われた舞は、テーブルをバンッと叩いて勢いよく立ち上がった。

「そんな古臭いこと、なんでやらなくちゃいけないのよ! ええ、そうよ。全部、嘘よ」

 藤沢夫妻は呆気にとられるばかりで、娘を止めることすらしない。

「だって、唯が悪いんじゃない。無駄にいい子ぶっちゃって。あいつがいたら、面倒な事ばかりやらなくちゃならないし」

「藤沢さん」

 これ以上聞いていても意味がない。そう判断した父が、家長として仕切り直す。

「そちらの女性を、高宮家に受け入れることはできません」

「……はい。申し訳ありません」

「舞さんとの縁談は、破談ということで」

「あんたなんて、こっちから願い下げよ」

 まだ言い返す元気があったのかと、呆れてしまう。

「いい加減にしなさい、舞」

「うるさい! パパはどっちの味方なのよ」

 珍しく、藤沢社長が声をあげる。が、子どもの頃からさんざん甘やかされて、好き勝手やってきたのだ。それくらいでこの女が怯むわけがない。

「邪魔だ、話ができない。夫人、ご息女を連れて、一旦帰ってくれ」

 時間の無駄だと、さっさと切り捨てる。

「なによ、失礼な男ね」

「ま、舞、とにかく出ましょう」

 伸ばされた母親の腕を振り払う舞だったが、なんとかこの場から連れ出されていった。
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