バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「よいしょっと」
ある日、リビングの高い棚の上から調理器具を出そうと、詩織が脚立を持ってきた。
足をかけ、一段登る。
すると、背後から伸びてきた逞しい腕が、詩織の腰のあたりをふわりと持ち上げた。
驚く間もなく、そのままそっと床の上へと下ろされる。
「あぶないよ。俺がいる時は高いところにあるものは俺が取るから、いつでも言って」
顔のすぐ近くでふわりとほほ笑む鷹木の笑顔に、詩織の胸が、ドキリと跳ね上がる。
自分の顔が急激に赤く染まる気配に気づき、詩織はごまかすように後ろをむいた。
ドクドクと鳴り止まない胸に手を当てる。
鷹木に大切に扱われる。
そのたびに、詩織は、自分のすべてを否定されて失ってしまった女性としての自信を、少しずつ取り戻していく気がしていた。
*
『えー! いつの間にそんな展開に……同棲?!』
電話の向こうで有希が叫ぶ。
「同棲じゃない。同居よ、ど・う・きょ」
詩織はあわてて訂正した。
有希は長期の出張で広島にいる。なかなか会える時間がないので電話をすることになった。
『同じようなもんじゃない。独身の男女なんだから』
「全然違うわよ。前提が!」
鷹木とは、付き合っているわけではない。
そうなってもいい。
そうなったら嬉しいと思う自分がいるのも確かだが、まだ一歩を踏み出せずにいた。
貴大の件も、不安が残る。
『ま、詩織にしては思い切ったわね。じゃあ後は、付き合うだけだ』
「で、でも、どうしたら……」
自慢じゃないが、告白などしたことがない。
大学時代に二人ほどお付き合いをした経験はあるが、どちらも相手から言ってきてくれた。そして、自然消滅をした。
理由は明白だ。深い関係になることを、詩織が拒んだから。
もう少し待ってほしいと言っただけなのだが、断られたと思ったのだろう。気付いたら彼らは、別の女性と付き合っていた。
『どうもこうも、そのまま彼の厚ーい胸板に飛び込んで、熱ーい夜を過ごしちゃえばいいじゃない。両想いなんだから、身体の関係さえ作っちゃえば、もう始まるでしょ』
言葉に詰まる。
それが出来たら、こんなに困っていない。
貴大と男女の関係を持たなかった事は、有希にも言えていない。彼女は、とっくに詩織も済ませたと思っているはずだ。
喉の奥に小骨が刺さったような心地で、詩織は、薄くため息を吐いた。