バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
今、自分の生活は180度変わった。
大学時代の屈折した男女感や、仕事一筋だったこれまでの社会人生活が信じられないくらい、毎日が楽しくて仕方がない。
朝比奈詩織が、家にいる。
急に自分の世界に鮮やかな彩りができた。
ほんの少し戸惑う瞬間もあるけれど、立ち止まっている時間がもったいないほどに心が躍っている。
朝、目を覚ましてから一緒に出勤するまで。
退勤後、職場の近くまで車で迎えに行ってから夜が更けるまで、ずっと詩織と同じ空間にいられるのだ。
土日は時々仕事が入る日もあるけれど、それでも、家にいる時は自然と詩織の後ろを着いて歩いていた。
少しでも長く喋っていたかったし、視界の中に詩織の顔を収めていたかった。
鬱陶しがられ、嫌がられるのではないかと不安がよぎった日もある。
だが、彼女の穏やかな表情を見る限り、勘違いでなければ、詩織自身も自分と一緒に過ごす時を楽しんでくれているように感じられた。
一人でいる間にあの男から怖い思いをさせられた反動もあるのだろう。誰かと一緒にいるという状態そのものが、今の彼女の拠り所になっているのかもしれない。
とうの昔に完全に終わったと諦めていた初恋が、いま、ふたたび目の前にやってきた。
*
日曜日の午後、鷹木はリビングの大きなテーブルに大量の資料を広げて仕事をしていた。
担当している、助成金不正流用疑惑事件。
公的機関からの依頼で第三者調査員として動いている件だった。どうしても打開策が見つからず、行き詰まっている。
眉間に深い皺を寄せて書類を睨みつけていると、キッチンのほうから控えめな足音が近づいてきた。
「鷹木さん、お夕飯……あ、すみませんお仕事中に」
「いや、ごめんこっちこそ。少し煮詰まったもんだから広いテーブルで考えようかなと」
鷹木が慌てて表情を緩めて応じると、詩織は手元を気にするようにして、足早に部屋を出ようと身体を反転させた。
「私、自分の部屋にいます」
「どうして?」
「だって、弁護士さんのお仕事の資料なんて見ちゃいけないですよね?」
詩織の顔がみるみるうちに青ざめていく。
職業柄、厳格に課されている守秘義務のことを心配しているのだろう。真面目な彼女らしい反応に、鷹木は思わず声を立てて笑った。
「大丈夫だよ。さすがに人に見せられない資料は部屋か事務所だ」
鷹木は机の上の紙の束をトントンと指先で叩いて見せた。
「これは一般にも公開されているIR資料を印刷したものだから、詩織さんが見ても問題ない」
「IR?」
「決算資料みたいなものかな。インターネットで公開されているものだから安心して」
その言葉を聞いて、詩織はほっと息をついた。
肩の力がすっと抜けていく。