バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「残念だったな、有希さんに会えなくて」
スーツの上着を脱ぎ、首元のネクタイをゆっくりと緩めながら、鷹木が本当に残念そうに言った。
「有希も残念がっていました」
「弁論大会の時にバナナを差し入れてくれたお友達だろう? 今度会えたらちゃんとお礼を言わなきゃな。俺たちのキューピットなんだから」
鷹木は、いつもの優しい笑みを詩織に向けた。その温かい表情に、詩織の頬が自然と熱くなる。
「また誘います。私も鷹木さんにはぜひ、有希に会ってもらいたいし」
詩織がキッチンから温かいお茶を運ぶ。
鷹木がふと、手元の荷物を置く動きを止め、その綺麗な瞳でじっと詩織のことを見つめてきた。
「ちょっとした提案をしてもいい?」
「はい、何ですか?」
彼の声のトーンが、急に真剣なものへと切り替わる。
鷹木は一歩近づくと、詩織の小さな手を自分の両手でそっと包み込むようにして重ねた。
「……名前。名前で呼んでくれないか?」
「え……」
鷹木は少しだけ照れたように視線を揺らし、重ねた詩織の手をきゅっと強く握り直した。
「せっかく付き合ってるから『慧』って呼んでほしい。俺も『詩織』って呼びたい」
「あ、その……」
「ダメ?」
彼が小首をかしげて詩織の顔を覗き込んでくる。
その少し不安げな潤んだ瞳は、飼い主に縋る子犬のようだ。かわいらしい。
「ダメなんてことは。その……け、慧、さん」
顔が真っ赤に染まっていくのを感じながら、震える声でその名前を呼ぶ。
鷹木は、世界で一番幸せそうな笑みをふわりと浮かべた。
そのまま、握られていた手が引かれ、詩織の身体が彼の広い胸へと引き寄せられる。
顔が近づき、唇が重なった。
優しく触れ合うだけの、穏やかなキス。
「詩織……」
名前を呼ばれる。詩織が緊張を解いて鷹木の身体にそっと身を預けた。
ふわりとした唇。その隙間から、厚くて熱い鷹木の舌が、滑り込むようにして侵入してきた。
熱を帯びた彼の舌が、詩織の舌へとちゅるりと滑らかな動きで絡められていく。
これまでに経験したことのない、不思議な感覚が詩織の頭の中を白く染めた。
「……んっ」
彼が口内を撫でる。ピリリとした感覚が全身を駆け巡る。つられるようにして、詩織の膝が少しだけ震えてしまう。
詩織の背中に回されていた鷹木の大きな手が、ゆっくりと下方へと滑り落ちていく。
薄いシャツ越しに、詩織の柔らかい腰の曲線を、慈しむように深く撫で上げた。
このまま、もっと進んでいくのだろうか。
自分は今夜、鷹木に抱かれるのだろうか――。
その先の展開が頭を掠めた瞬間、自分の心に巣食う暗い想像が、鋭いトゲのように詩織の心臓をちくりと刺した。
ーードンっ!
詩織は、目の前にある鷹木の広い胸を強く押し返す。
二人の身体が不自然に離れた。
突然拒絶された鷹木は、目を見開いたまま、驚きと戸惑いに満ちた表情で詩織を見つめている。
「あの、私……ご、ごめんなさい!」
詩織は小さく叫ぶように声を上げると、彼から顔を背け、客間へと全力で逃げ出した。
パタンとドアが閉まる。
静まり返ったリビングには、ただ一人、呆然と立ち尽くす鷹木だけが残された。