バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「嘘でしょ……」
昨日の今日でランチに呼び出された有希は、青い顔をした。
「……本当」
昼時の賑やかな店内の雰囲気には全くそぐわない重い話題だったが、これを相談できる相手は世界中で有希しかいない。
詩織は恥を忍んで、昨夜リビングで起きた出来事と、元夫とのこれまでの経緯のすべてを打ち明けた。
「まぁでも、そっか。確かにマザコンの上50代女性と不倫してたわけだしね。若い女の身体に興味なかったか」
「私に魅力がなかったから、だから貴大さんは手を出さなかったんだと思うの。こんな事が鷹木さんに知られたら……」
元夫に女性として一切見向きもされず、入籍してから一度も身体の関係を持たないまま離婚したバツイチ。
そんな歪んだ事実を知られたら、鷹木に幻滅され、軽蔑されてしまうのではないか。
消え入りそうな声で話しながら、詩織は視線を落としてうつむいた。
カウンターの隣の席に座っていた有希が、詩織の両頬を叩くような勢いで、手のひらでぐっと強く包み込んできた。
「顔、上げな」
無理やり顔を上向かされ、有希の強い眼差しと真っ直ぐ目が合う。
「しっかりして、詩織」
仕事ばかり。誰とも深く付き合ったことがないままお見合い結婚し、そのまま傷ついて戻ってきた詩織の不器用さを、有希は誰よりも知っている。
「タカギケイとのこと、焚きつけちゃったのはごめん。あの下着のせいでプレッシャーに感じさせちゃったのは、私のせいだよね」
「ち、ちが……」
有希は首を振って詩織の言葉を遮る。
「詩織が経験豊富じゃないって知ってたんだし、もっとちゃんと話を聞いてればよかったって……今すごく後悔してる。でもね……」
有希は一呼吸置き、さらに真剣なトーンで続けた。
「詩織も悪いよ。私にじゃない、タカギケイに。今の詩織は、自分が断られたり、幻滅されることばかり考えてるでしょう。でも詩織から何の説明もなく突然拒絶されて、今、傷ついてるのはタカギケイも同じじゃない?」
「……あ」
言われて初めて、詩織の胸に鋭い痛みが走った。
たしかに昨夜の彼は、目を丸くして酷く驚いた顔をしていた。
ほんの少し前に『付き合ってほしい』と自分から気持ちを伝えてきた恋人から、理由もわからず突き飛ばされたのだ。
傷つかないはずがなかった。
「素直にならなきゃ。自分の過去を知ってもらうことを怖がってちゃ、関係性なんて始まらないんだから。……そもそも、詩織が好きになったタカギケイは、経験があるとかないとか、そんな事で詩織を嫌うような器の小さい人なの?」
「ちがう、鷹木さんはそんな人じゃ……あ」
詩織が勢いよく首を振ると、有希は満足そうににこりと笑った。
「でしょ」
有希は頬から両手を離すと、そのままテーブルの上で詩織の震える手をぎゅっと握りしめる。
「考えてみてよ。誰にでも初めての時はある。それを、初恋のタカギケイにあげられるんだよ? それって、ものすごく幸せな事だと思う。あんな変な男に詩織の初めてを奪われてなくて、むしろ良かったわよ」
有希の温かい手の平の熱と、スパッとした言葉が染み込んでいく。
詩織の肩からすっと余計な力が抜けていった。
頑なだった心の結び目が、ゆっくりと解けていくのがわかる。
「そう……そっか。そうだよね」
「謝れそう? タカギケイに」
詩織は唇を真一文字に結ぶと、胸の前で大きく深く頷いた。
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