バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

ーーカチャリ。

 夜の静かなリビングに、鍵の開く音がした。控えめに扉が開き、肩を落とした鷹木が帰宅する。

「お帰りなさい」
「あ……ただいま」

 声を掛け合った。しかしすぐに、二人の間に重苦しい沈黙が降りる。気まずさに視線が泳ぎ、互いに次の言葉を探して口を開いては閉じる。

「「あ、あの!」」

 張り詰めた空気を破るように、同時に二人の声が重なった。

「あ、すみません、どうぞ」
「いや、こっちこそ。詩織さん、お先にどうぞ」

 丁寧すぎるほどの譲り合いが発生し、再び短い沈黙が訪れる。
 そして、それすらも耐えかねたように、二人は全く同じタイミングで頭を下げた。

「ごめん!」
「ごめんなさい!」

「「……え?」」

 またしても完全に重なった声に、二人は同時に顔を見合わせ、目を丸くした。





 リビングのソファに、二人は少しだけ距離を空けて座った。
 落ち着きを取り戻した空間で、詩織は、自身の過去を一つずつ、丁寧に打ち明けていった。
 学生時代のお付き合いでは、誰とも深い関係に至らなかったこと。元夫からも、一度も女性として扱われず、夫婦としての営みが皆無のまま終わったという事実を。

「……そう、だったんだ」

 静かに聞き終えた鷹木が、低く、噛み締めるような声を漏らした。

「だから、ごめんなさい。鷹木さんのことが嫌とかじゃなくて、私その……バツイチなのに未経験だって知られるのが怖くて。こんな変な自分、嫌われちゃうんじゃないかって……」
「嫌うだなんてそんなこと、絶対にない!」

 詩織の言葉が終わるか終わらないかのうちに、鷹木が叫んだ。
 そのあまりにも必死な表情と大きな声に、詩織は驚き、うっすらと目に浮かんでいた涙が引っ込む。気が抜けてしまった。

「よ、よかった……」

 詩織は小さく息を吐き、自分の胸元をギュッと握りしめる。

「俺の方こそごめん、君の気持ちや過去の傷に気遣いもせず、勢いに任せて強引に迫ってしまって……」
< 56 / 100 >

この作品をシェア

pagetop