バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
ーーカチャリ。
夜の静かなリビングに、鍵の開く音がした。控えめに扉が開き、肩を落とした鷹木が帰宅する。
「お帰りなさい」
「あ……ただいま」
声を掛け合った。しかしすぐに、二人の間に重苦しい沈黙が降りる。気まずさに視線が泳ぎ、互いに次の言葉を探して口を開いては閉じる。
「「あ、あの!」」
張り詰めた空気を破るように、同時に二人の声が重なった。
「あ、すみません、どうぞ」
「いや、こっちこそ。詩織さん、お先にどうぞ」
丁寧すぎるほどの譲り合いが発生し、再び短い沈黙が訪れる。
そして、それすらも耐えかねたように、二人は全く同じタイミングで頭を下げた。
「ごめん!」
「ごめんなさい!」
「「……え?」」
またしても完全に重なった声に、二人は同時に顔を見合わせ、目を丸くした。
リビングのソファに、二人は少しだけ距離を空けて座った。
落ち着きを取り戻した空間で、詩織は、自身の過去を一つずつ、丁寧に打ち明けていった。
学生時代のお付き合いでは、誰とも深い関係に至らなかったこと。元夫からも、一度も女性として扱われず、夫婦としての営みが皆無のまま終わったという事実を。
「……そう、だったんだ」
静かに聞き終えた鷹木が、低く、噛み締めるような声を漏らした。
「だから、ごめんなさい。鷹木さんのことが嫌とかじゃなくて、私その……バツイチなのに未経験だって知られるのが怖くて。こんな変な自分、嫌われちゃうんじゃないかって……」
「嫌うだなんてそんなこと、絶対にない!」
詩織の言葉が終わるか終わらないかのうちに、鷹木が叫んだ。
そのあまりにも必死な表情と大きな声に、詩織は驚き、うっすらと目に浮かんでいた涙が引っ込む。気が抜けてしまった。
「よ、よかった……」
詩織は小さく息を吐き、自分の胸元をギュッと握りしめる。
「俺の方こそごめん、君の気持ちや過去の傷に気遣いもせず、勢いに任せて強引に迫ってしまって……」