バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「え、お兄ちゃんを私の彼氏だと思ってた?」
夜、マンションの部屋に帰ってきてからも、ずっと借りてきた猫のように大人しくしていた鷹木が、ソファの上でようやく重い口を開いて真相を話してくれた。
「……うん」
当時、授賞式が終わったあと、詩織の姿を探して会場を駆け回ってくれたらしい。
ようやく見つけたロビーで、詩織と、系統の異なる制服を着た男子が親しげに笑い合っている様子を見た。『恋人がいるんだ』と勝手に勘違いし、声をかけるのを諦めて引き返してしまったのだという。
「もったいない事をした。俺が日和らずに、あの時ちゃんと声をかけていれば、もっと早く詩織と出会えたのに……はぁ、本当にバカなことをした」
鷹木はクッションを胸に抱え込み、大きな身体を丸めて落ち込んでいる。
普段の冷静な弁護士らしからぬその格好に、詩織の胸の奥が愛しさでいっぱいになった。小さく笑いながら彼の隣に腰掛け、膝の上の彼の手に、そっと自分の手を重ねた。
「あのね、慧さん。私も同じよ」
「……どういうこと?」
クッションからちょっとだけ顔を覗かせた鷹木の瞳に向かって、詩織は今まで胸の奥にしまっていた秘密を告白した。
自分もまた、鷹木に声をかけようと探したのだが、勇気が出ずにその場から退散してしまったのだと。
「たくさんのお友達に囲まれていて、その中に、かわいい女の子の姿もあったから。声をかけづらくて……」
「うちは弁論部があったから、みんなで来てくれてたんだ。共学だったしな」
あの時、どちらかが一歩を踏み出していれば、二人はもっと早くに出会えていた。
「私たち、同じね」
臆病で自信がなくて、すれ違う。
でも、ほんの少しだけ勇気を出せた瞬間があるから、長い時を経て出会うことができた。
「同じか」
「うん。同じ」
「詩織、こっち来て」
隣から低い声が響く。
重ねていた詩織の手はいつの間にか彼の手のひらにしっかりと握り直され、少し強引に身体を引っ張られた。
「わっ……」
スポリと、鷹木の大きな腕の中に吸い込まれるように収まる。
さっきまで落ち込んで身を丸めていた彼からは想像もつかないほど、熱を帯びた甘やかな瞳が至近距離で詩織を捉えていた。
彼の大きな手が詩織の顎をそっと持ち上げる。促されるまま、詩織は上を向き、ゆっくりと目を閉じた。
温かい唇が、上から静かに降ってくる。
もう、何度目か数えられなくなったキス。
慣れないなりに、彼にすべてを委ねる身の任せ方は、詩織の身体がちゃんと覚えていた。
「……詩織」
唇が離れ、切なげに名前を呼ばれる。
詩織は潤みはじめた瞳で、笑顔で頷いた。それが、始まりの合図だ。
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