バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
ピタリと、詩織の足が道路に張り付く。
「私、彼と結婚したいの。だから別れて」
驚きと困惑で眉をひそめながら、詩織はゆっくりと振り返る。
麗子の顔を見つめた。
「……お断りします。何ですか急に、失礼なことを言ったり一方的に。だいたい、慧さんはあなたのような方と……」
そこまで言いかけて、詩織はハッと息を呑み、自らの口を手で震えるようにしてつぐんだ。
街灯の光に照らされたその輪郭、声のトーン。
「……あなた、昨日の、着物の」
麗子は一瞬だけ意外そうに目を見開いたが、すぐにクスクスと肩を揺らして、愉快極まりないといった表情を浮かべた。
「あら、どうしてそれを知っているの? もしかして、鷹木さんのことをコソコソ付けていたのかしら?」
「ちがいます! たまたま友人と食事をしに行ったら、その……」
「ふーん、あのホテルにいたのね。じゃあ話が早いわ。そうよ、私、慧さんとお見合いだったの」
「おみ……う、嘘です。だってそんなこと、彼から一言も聞いていません」
「言わなかったの? あら、じゃあ嘘をつかれたか……それとも、あなたに隠しておきたかったのかしらね。ふふ、かわいそうな朝比奈さん。本当のことを何一つ話してもらえないだなんて」
「そ……」
そんなことない。
彼はそんな不誠実な人じゃない。
必死にそう言い返そうとするのに、喉の奥がカラカラに干からびて声が上手く出ない。
弁護士の会合だと嘘をついて出かけた彼は、確かに綺麗な振り袖姿の彼女と二人きりで歩いていて、そして暗がりで抱き合い、お互いの唇を……。
背筋の奥から、氷水を流し込まれたようなぞっとする冷気が走る。
「じゃあ、アレも見ていたのかしら? 私たちが抱き合って……キスをしたのも?」
ヒュッ。
詩織の喉から息が詰まる音が漏れた。
それ以上言葉が出せなくなる。自分の顔が真っ青に変色していくのが自覚できるほど、身体が冷たくなった。
やはり、自分の見たあの光景は、紛れもない現実だったのだ。