バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「見たのね。分かったでしょう、彼だってその気なのよ。だって私、判事の娘なの」
「……はん、じ?」
「やだ、知らないの? 裁判官のことよ。父は最高裁判所の裁判官なの。今度、鷹木さんの人生を左右する大きな事件をパパが受け持つのよ」
麗子は勝利を確信したような足取りで、少しずつ、確実に詩織との距離を詰めながら言葉を重ねていく。
「理解できるかしら? 私は記者だけど、同時に判事の娘。鷹木さんのこれからのキャリアを支える結婚相手として、これ以上なく申し分ない立場なの」
「そ……でも、ですが、それは慧さんが決めることです。あなたが勝手に申し分ないだなんて……」
「彼もそう思ったから、あなたに隠していたんじゃないかしら?」
ピクリと、詩織の身体が大きく跳ねる。
一番恐れていた、最も痛いところを突かれた。
言い返せない詩織の耳元へ、じわじわと鼓膜を侵食するような麗子の低い声が這い寄ってくる。
「あなたはただの介護士。そりゃあ立派な仕事よ? 世の中に必要だわ。でも、鷹木さんの輝かしい未来を支えるパートナーとして、ふさわしい職業かしら?」
ねっとりとした悪意に満ちた声が、蜘蛛の糸のように耳の奥へまとわりつく。
「薄給の介護士でバツイチのあなたと、高名な判事の娘で未婚の私。ついでに年齢だって私の方が若くて価値があるわ。ねえ、どっちが鷹木慧にふさわしいか、子供でも分かるんじゃない?」
じっとりと冷たい汗が、詩織の背筋を伝ってダラリと落ちた。逃げ出したいのに、麗子からの容赦のない言葉の刃が次々と突き立てられ動けない。
「パパは絶対に不正なんかしないお堅い人だけど、でも、パパは私のことが何よりも大事なの。もし私が彼に無下に袖にされたら、娘を傷つけられた父親として、彼を裁判で負けさせたい気持ちにだってなるでしょうね。『全方位負けなし』とまで謳われたあの鷹木慧に、人生で初めての黒星がつくかもしれないわ。……あなたのせいで」
足元のコンクリートが溶けて、暗闇の底へと飲み込まれて行く。
そんな錯覚に襲われながら、詩織は崩れそうになる膝を必死に奮い立たせ、その場に立ち尽くした。