バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
とぼとぼと、重い足取りで詩織は夜道を歩く。
今日も、マンションに帰る決心がつかないままだった。形ばかりの自習をした後、職場の鍵を閉める。
いつまでも、こんな生活を続けてはいられないことなど、百も承知だ。
苦し紛れに駅前の衣料品店で買った服と、それまで着ていた服をホテルのコインランドリーで洗濯しながら、どうにか周囲に誤魔化して出勤するのも、今日で三日目。
心も身体も限界に近く、一歩を踏み出すたびに足取りが鉛のように重い。
ホテルのエントランスをくぐったが、思い直して、隣にあるコンビニへ向かう。食欲など微塵もないが、体力のいる介護職だ。何かを胃袋に入れなければ身体が保たない。
だが、お弁当や惣菜が並ぶ棚を一回りする頃には食欲が失せた。結局、水だけを買って外に出る。
隣にあるホテルへ入ろうとした、その時だ。背後から迫った影に、突然、手首を強く掴まれる。
「きゃっ」
予期せぬ衝撃に、喉の奥から小さな悲鳴が出る。
驚き振り向くと、そこには、汗だくになり肩を激しく上下させ息を切らした鷹木がいた。
「け、慧さ……」
詩織の顔は一瞬で石のように冷たく固まり、青ざめる。
一番見つかってはならない彼に見つかってしまった。
「はぁ、はぁ……」
鷹木は額から流れ落ちる汗をスーツの袖で乱暴に拭いながら、詩織の手首を掴んだまま、まっすぐに視線を逸らさず見つめた。
その瞳は焦りと、狂おしいほどの熱が浮かんでいる。
「詩織……」
低く、掠れた声で名前を呼ばれ、詩織の肩がびくりと震える。
鷹木は、ぱっと弾かれたように慌ててその手を離した。
「あ……ご、ごめん、怖かったな突然掴んで」
違う。
震えたのは、彼のやつれた声に驚いただけだ。さっき声を漏らしたのも、突然のことにびっくりしただけだった。
しかし鷹木は、自分が重大な過ちを犯したかのように、オロオロと慌てふためく。
「大丈夫、詩織が良いって言うまで絶対に触らない。乱暴なこともしない。ただ……」
鷹木は青い顔で必死に説明を重ねる。