バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

 チェックインを済ませてベッドに横になったまま、詩織は指先一つ動かすことができずにいる。
 数日ぶりに間近で見た鷹木の目の下には、深い隈が刻まれていた。
 仕事が忙しいのだろうか。それとも、自分が家を空けているせいで、満足に眠れないのだろうか。
 あんなにやつれた顔をしていながらも、彼はどこまでも優しい。
 詩織が傷つかないように、貴大から受けた暴力を思い出させまいと、言葉を選び、最大限にこちらを気遣ってくれていた。

 それなのに……まともな受け答えすらできず、拒絶するような態度を取ってしまった自分が、情けなくて不甲斐ない。

 西園寺麗子から突きつけられた言葉が、耳の奥で何度も呪いのように繰り返される。

『介護士でバツイチのあなたと、判事の娘で未婚の私。どっちが鷹木さんにふさわしい?』

 彼女の、すべてを見下すような冷たい目。
 それから、ホテルの庭園で目撃してしまった二人の見合いの一幕が、鮮明な映像となって脳裏に蘇る。

「……はぁ」

 詩織は静かに目を閉じた。
 麗子のことを考えても良い答えは見つからないだろう。鷹木のことを考える。

 これまで鷹木がくれた、たくさんの優しさ、暖かさ。その中で一番嬉しかったことは何だろうか。

 『見返りなんていらない』

 ……そうだ。
 彼は一つも見返りも求めなかった。ただ詩織が笑っているだけで、自分らしく生きていてくれるだけで良いと言ってくれたのだ。
 あの言葉があったからこそ、詩織は心を壊さずに済んだ。

 麗子の言う通り、バツイチで介護士の自分は、彼にとって足手まといな存在かもしれない。しかし……。

「慧さんの足を引っ張りたくないから別れる……それって本当に慧さんのため?」

 自身の心へ問いかける。

 一見、彼の輝かしい将来を思って身を引くように見えるけれど、実のところ、自分が傷つくことからの逃げではないだろうか。

 正面から彼と向き合って『詩織とは一緒にいられない』と拒絶されることを恐れているだけではないか。
 万が一にも、麗子の父親の力で負けたとき『詩織のせいで負けた』と彼から恨まれることを、一人で勝手に怖がっているだけではないか。

 だが果たして、あの鷹木慧という男が、本当にそんな身勝手なことを言うだろうか。

 『自分の敵は自分』

 急に、有希の力強い声が、頭の中に蘇る。

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