彼はアメとムチがうますぎる ~つめたい上司のあたたかい味噌汁~
つめたい新上司と関西白味噌
今年も、健康診断の日がやってきた。
(平均睡眠時間は……三時間くらいかな……)
問診票の項目をひとつずつ埋めながら、小さく息を吐く。
本来なら事前に専用のサイトから入力しておくはずだったのに、私としたことがすっかり失念していた。
会社近くにある女性専用の健診センターは、私と同じようなOLで混雑している。私はロビーの端っこで肩を小さくすぼめながら、必死にボールペンを走らせていた。
(一日一食、寝る前には缶ビールを一本、そして運動は一切しない……って、ズタボロな生活習慣だな、私)
毎日、仕事に追われる日々。既往歴や服薬歴はないものの、心身ともにギリギリで毎日をやり過ごしている感覚だった。
起きている時間のほぼすべてを仕事に捧げている。まさに、私の人生=仕事。
学生の頃は、そんな二十六歳になるとは想像もしていなかった。
(あ、肝心な名前を書いてなかった……)
一番上の氏名欄に玉木佐羽と記入し、急いで受付へ提出する。
それからワンピースタイプの検査着に着替え、午後から行う業務内容を頭で整理しながら、淡々と検査を受けて回った。
最近はずっとこうだ。何かをしていてもずーっと、頭の片隅で仕事のことを考えている。
(だって私がいないと……部署が回らないんだもん)
先輩社員は、自分の仕事以外は一切興味のない……協調性ゼロの人間ばかり。そして後輩たちは、まだまだ一人前には程遠い。
客観的に見て、ウチの部署の実質的なリーダーは私だ。すべての業務を把握し、後輩に的確なアドバイスや指示を出せるのは……課長でも先輩たちでもない。
だけど、別に望んでこのポジションに立ったわけではなかった。
(っていうか、この部署のみんなが適当すぎるのよ。本当もう……緩すぎる)
私だって仕事だけではなく、恋や趣味や、そういうのでプライベートを充実させたい。それなのにそれが叶わないのは、この部署でまともな責任感を持っているのが、私一人しかいないからだった。
(転職、か……)
最近、やたらと転職サイトの広告が目につく。電車の吊り革、テレビCM、SNSのタイムライン……その二文字を見るたび、心がグラグラと揺らぐ。
もっと、充実した人生を歩める道があるのではないか。私だって、仕事以外のことで人生を謳歌してみたい……。
……まあでも、転職活動をするような時間も体力も、今の私には欠片も残っていないのだけど。
「あ、佐羽さん! 待ってたんですよ! さっき営業一課の人から、追加の書類作成をお願いされて……」
(会社に戻って早々、これか……)
「わかった、私がやっておくから。依頼内容転送しておいて」
出社して開口一番、上目遣いで甘えてくる後輩。腕にはまだ、健診で貼られた採血後の注射テープが残ったままだ。
昔ならイラッとしていたであろうこのぶりっ子ポーズにも、最近はもう怒りすら湧いてこない。
私がやればいい。私が引き受ければ、余計な摩擦もなく丸く収まる。
周りに期待することなんて……とっくの前にやめていた。
「……失礼。お前が玉木佐羽だな?」
パソコンに顔を近づけ、これから業務開始ってときに……聞き馴染みのない低い声が頭上から降ってくる。
反射的に顔を上げると、背の高い色白なイケメンが立っていた。
整いすぎた目鼻立ちに、隙のないスーツ姿。初めて見る、圧倒的な顔面の良さと冷ややかなオーラを放つイケメンに、一瞬言葉を失う。
(平均睡眠時間は……三時間くらいかな……)
問診票の項目をひとつずつ埋めながら、小さく息を吐く。
本来なら事前に専用のサイトから入力しておくはずだったのに、私としたことがすっかり失念していた。
会社近くにある女性専用の健診センターは、私と同じようなOLで混雑している。私はロビーの端っこで肩を小さくすぼめながら、必死にボールペンを走らせていた。
(一日一食、寝る前には缶ビールを一本、そして運動は一切しない……って、ズタボロな生活習慣だな、私)
毎日、仕事に追われる日々。既往歴や服薬歴はないものの、心身ともにギリギリで毎日をやり過ごしている感覚だった。
起きている時間のほぼすべてを仕事に捧げている。まさに、私の人生=仕事。
学生の頃は、そんな二十六歳になるとは想像もしていなかった。
(あ、肝心な名前を書いてなかった……)
一番上の氏名欄に玉木佐羽と記入し、急いで受付へ提出する。
それからワンピースタイプの検査着に着替え、午後から行う業務内容を頭で整理しながら、淡々と検査を受けて回った。
最近はずっとこうだ。何かをしていてもずーっと、頭の片隅で仕事のことを考えている。
(だって私がいないと……部署が回らないんだもん)
先輩社員は、自分の仕事以外は一切興味のない……協調性ゼロの人間ばかり。そして後輩たちは、まだまだ一人前には程遠い。
客観的に見て、ウチの部署の実質的なリーダーは私だ。すべての業務を把握し、後輩に的確なアドバイスや指示を出せるのは……課長でも先輩たちでもない。
だけど、別に望んでこのポジションに立ったわけではなかった。
(っていうか、この部署のみんなが適当すぎるのよ。本当もう……緩すぎる)
私だって仕事だけではなく、恋や趣味や、そういうのでプライベートを充実させたい。それなのにそれが叶わないのは、この部署でまともな責任感を持っているのが、私一人しかいないからだった。
(転職、か……)
最近、やたらと転職サイトの広告が目につく。電車の吊り革、テレビCM、SNSのタイムライン……その二文字を見るたび、心がグラグラと揺らぐ。
もっと、充実した人生を歩める道があるのではないか。私だって、仕事以外のことで人生を謳歌してみたい……。
……まあでも、転職活動をするような時間も体力も、今の私には欠片も残っていないのだけど。
「あ、佐羽さん! 待ってたんですよ! さっき営業一課の人から、追加の書類作成をお願いされて……」
(会社に戻って早々、これか……)
「わかった、私がやっておくから。依頼内容転送しておいて」
出社して開口一番、上目遣いで甘えてくる後輩。腕にはまだ、健診で貼られた採血後の注射テープが残ったままだ。
昔ならイラッとしていたであろうこのぶりっ子ポーズにも、最近はもう怒りすら湧いてこない。
私がやればいい。私が引き受ければ、余計な摩擦もなく丸く収まる。
周りに期待することなんて……とっくの前にやめていた。
「……失礼。お前が玉木佐羽だな?」
パソコンに顔を近づけ、これから業務開始ってときに……聞き馴染みのない低い声が頭上から降ってくる。
反射的に顔を上げると、背の高い色白なイケメンが立っていた。
整いすぎた目鼻立ちに、隙のないスーツ姿。初めて見る、圧倒的な顔面の良さと冷ややかなオーラを放つイケメンに、一瞬言葉を失う。