忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜

18.ほんとうのこと

  
「…………妹が生まれて」
 圭介はぽつぽつと喋り始めた。

「妹?」
 唐突に、質問とは無関係な単語が出てきたことに、道哉が怪訝な声を向けている。

「最初は嬉しかったのに、ときどきそうじゃなくなって、そんな自分に怖くなって――苦しくてどうしたらいいか分からなくなって」
 重力があるような圭介の声に引き込まれる。 

「妹は、親父たちが結婚してすぐできたんです。妹の後に弟も生まれて……、俺、自分の居場所がなくなった気がして……。で、自分の母親に会いに行ったんですよ」
 圭介の声が自虐的になった。

「むこうにも子供がいて幸せに暮らしてました。……会いに行った自分に怒りが湧きました、惨めで……。
 でも家に帰ったら妹たちが俺を取り合って騒いで、母さんは優しくて親父も楽しそうで、家の中はいつもと同じに明るくて、俺は自由で。――そうだった、俺にも家族がいたんだってほっとした。
 なのにしばらくするとまた俺はおかしくなる……そんなときに、心菜に会いたくなったんです」

 !
 やっぱり、道哉が覚えていた『少年』は圭介だったの……?
 でも、なぜ? 
 
「……だからムカついたんです。心菜が学校から真っ直ぐ帰って家のことをしてる間に、あんたが他の女とちゃらついてるのが」
 突然の非難に戸惑ったのか、道哉が宥めるような口調を向けている。
「……いや、別にね、遊んでたつもりはないんだよ」
「心菜は男運がない。あんたの次はあんな男だ。あんたと同じだった。どいつもこいつも、心菜をその他大勢のひとりとして扱うなんて、ありえない」

 ……圭介、
 心の声が漏れないよう、必死に耐える。

「つうかさ、ココに男運がないんだったら第三の男であるきみも、その可能性があるんじゃない?」
「一緒にしないでください。俺は心菜だけを……ずっと大事にしてきた」
「どうだか」
 道哉が予定通りの“台詞”に戻した。
「土壇場で婚姻届を出し渋ったって聞いてるよ。結婚を継母に反対されたとか」
「……それは誤解です」
「けどきみの母親はココのせいで傷ついてボロボロになったんだろ? 恨んでて当然だよな」
「俺は、母さんからそんな風には聞いてません」
「じゃあ、どんな風に聞いてる?」
「……」

 ……どうして黙るのっ
 “答え”をくれない圭介がもどかしく、恨めしい。
 不安と恐怖が私の体を締めあげてくる。

「……」
「……」
「……」
 三人の沈黙の分だけ、私の呼吸は浅くなった。

 私は、両腕を抱きしめた。……圭介、なにが誤解なの? 教えてよ
 ……私の存在をどうやって知ったの? ずっと会いにきたのは、なんで?
 ……いつから私を?
 
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