忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「だから、圭介と結婚したからよ」
たぶんこのやりとりは三日に一回やっている。
他にもいくつかお約束のやりとりはあるけれど、まあ、それは私たち以外の人にはとても退屈で、恥ずかしくさせるようなものだから言わないでおこうと思う。
「今日も遅くなるけどごめんね」
圭介の肩越しから掛け時計を見上げて謝る。
「心菜の未来のためだろ。我慢するって」
「ありがとう」
私は夢を持った。料理を作る仕事をすることだ。
誰かに優しい食事を届ける仕事がしたい。
料理を作ることは責任だと思い込んできた。
でも圭介が、そこにも私の価値があることを教えてくれた。
大きな変化はもうひとつあった。
圭介が仕事を少し頑張りはじめたことだ。入退院で迷惑をかけた――にもかかわらず期待されていることに心が動かされたようだった。そうそう、心配していた友達とのつき合いもいつの間にか元に戻っていて、楽しそうにやっている。
私たちが――、私が、変わった結果なのだろう。
「――結婚式、楽しみだね」
「ほんとだね」
同じ季節の同じ日、同じ岬のチャペルで式をあげる。
今度は私たちだけじゃない。大切な人たちを招待して幸せを共有する。
私と圭介の想いだけじゃなく、家族全員でそう決めた。
「また心菜のドレス姿を見られると思うと興奮しちゃうな」
「はあ……、みんなにも見られちゃうんだよね、アレ」
“罰ゲーム”を脳裏に描いて重い溜息をつく。
「マジで楽しみ! みんなに心菜がどんなに綺麗か見せてやるんだ!」
「ねえ、それより自分の心配して。最近太ってきたけどタキシード着られるの?」
「大丈夫、大丈夫。ベッドの中で心菜と一緒に運動するから」
「私、関係ないじゃない」
「まあまあ、連帯責任ってことで。じゃあさ、朝起きたとき――――」
この先はまた馬鹿馬鹿しくて愛しい、いわゆる“いちゃいちゃ”タイムへと続いていく。お約束だ。もちろん、私は素早く逃げるのだけど。
【最終章おわり】