忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
+
母が眠る墓の前に新しい花が供えてあった。道哉だとすぐに気づいた。
明日、道哉とまみちゃんはここを離れて誰も知らない土地へ行く。
その前に圭介に謝罪がしたいと、今日、ふたりで家に来ている。
圭介が退院してほどなく、まみちゃんの様子を聞いた。
――今はすごく落ち着いてる。退院してからの、俺との未来だけを考えてる。
繊細で激しいまみちゃんは、道哉がそばにいる――それだけがすべてなのかもしれない。
+
「ただいま」
道哉とまみちゃんが帰った頃を見計らって帰宅した。
「おかえり」
声と水音が一緒に聞こえてきた。
圭介はキッチンで客用のソーサーとカップをぎこちない手つきで洗っていた。
「まみちゃん、どうだった?」
「うーん。かなり緊張してたみたい。倒れないか心配になっちゃった」
「……そっか」
自分を傷つけた人間を気遣うなんて圭介らしかった。
「帰り際、また絶対会おうって声掛けたんだけど道哉くんなにも言わなかった。本当にもう俺たちに会わないつもりなのかなあ」
「さあ、どうだろう」
圭介と並び、洗い終えたカップを布巾で拭く。ふたりが手をつけなかったクッキーとチョコレートは缶に戻した。
「先のことはわからないよ。でも信じていようよ」
使った台布巾を濯ぎながら言うと、圭介が目を瞬かせて私を見た。濡れた手のまま私の肩を掴む。ちょっと、と抗議の声をあげたら抱きしめられた。
「心菜はいつから未来を信じるようになったんだっけ」
右手に台布巾を持ったまま、私は圭介の胸に頬をくっつけた。