天才料理少女は、恋のレシピを知らない
プロローグ
2学期の中間テスト直前。
夏休みで、すっかりゆるみきった頭がうらめしい。

「やばい……」
「また教えようか?」

久保田(くぼた)家の広いリビングで頭を抱えていると、救いの声が降ってきた。

「お願いします!」
1学年上の春(はる)くんが、にっこりと笑う。

1学期の期末テストも、赤点を免れたのは彼のおかげだ。

「シャーペンも貸そうか?」
「ぜひ!」

前回、春くんがお守り代わりに貸してくれた紺色のシャーペン。

彼のように華麗に問題を解く……ということはできなかったけど、落ち着いてテストを受けられた。

差し出されたシャーペンに手を伸ばそうとすると、黒いシャーペンが横から並ぶ。
「ん?」

「杏(あん)、これ」
シャーペンを差し出してきたのは、1学年下の律(りつ)くん。
ものすごく、むすっとした顔をしている。

「学年トップのシャーペン」
「え?」

1学期の期末テストで学年トップを取ったことは、律くんから聞いて知っている。
でも、それと私のテストに、何の関係があるのだろう?

「俺のと交換しよ。兄ちゃんのより縁起いいって」
「律、杏ちゃんに勉強を教えてるのは俺だよ?」

「それが? 兄ちゃんは期末は学年何番だったんだよ」
「ここで順位なんて関係なくない?」

「関係ある! 俺はこれで年齢のハンデを埋める」
「追い越せると思わない方がいいよ。絶対に負けないし」

「いいや、俺が絶対に勝つ」
二人が、またケンカを始めてしまった。
最近よく見る光景。

こういうときは、さっさと帰る一択。
教科書を閉じてバッグの中に入れる。

ローテーブルから立ち上がりかけたとき、二人の視線が一斉にこちらを向いた。

「杏ちゃん」
「杏」

シャーペンが2本差し出される。
「「どっち使う?」」
「え……」

これは、どちらかを選ばないといけないやつなの?
っていうか、なんで私はこんなに緊張してるの?

――半年前まで、顔も知らない二人だったのに。
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