天才料理少女は、イケメン兄弟の恋心に気づかない
「田中さんは、東京の娘さんのところに引っ越し、榎本さんは老人ホームに入所、佐々木さんは去年亡くなってる。常連さんのほとんどが、もうこの辺にはいないよ」



商店街だけじゃなく、人もいなくなってきてるんだ。

自分とは全然関係のなかった場所なのに、それでも寂しい気持ちが込み上げてくる。



「ばんばん撮っていいよ! なんなら動画にする?」



私の写真や動画で、お客さんが集められるとは思えない。

でも、少しでも力になりたい。



「杏ちゃん……顔も撮っていい?」

「お断りします~」

「撮りたいな。髪を下ろしてるのもかわいかったけど、ひとつに結んでるのが、ものすごくかわいいし」



莉子ちゃんによく言われていた「髪はちゃんと毎朝、といてこようね」という言葉。

長年、ぼさぼさじゃなかったらオッケーって思っていたけど、少しだけ改めた。

そこを、すぐに拾ってくれるところが、さすが春くん。



「SNSには絶対に出さないし」

「それ、撮る意味ある?」



集客に使わない写真の使い道とは?



「うん。俺の思い出用。大丈夫。律にも渡さないから」



キッチンにいた律くんが、急に手を洗ったかと思うと、自分のバッグのところまで行く。

そして、スマホを持って戻ってきた。



「杏、こっち向いて」
< 50 / 104 >

この作品をシェア

pagetop