夕食に異世界転生鍋を作った件

EP02

 由耀は、キッチンに一時間ほど立っていた。
 視線の先には一抱えもある深い鍋。
 中には、3日間食べ続けたあの料理が半分以上残っている。
 そういえば2日前に食材を買い揃えたばかりだった。
 残念なことに冷凍庫のスペースは、野菜や肉などの食材で埋め尽くされている。

「こんなことなら少量で作ればよかった……」

 そう後悔しても時すでに遅し。

「さくらぁ……」

 飼い猫に縋るように呼び掛けるものの、当のさくらはぷいっと顔を背け、何も聞かなかったように通り過ぎる。
 窓から外を見るとまた雪が積もっている。
 今日も寒くなると思いながら、再び視線を鍋に戻す。
 鍋の中から「私を食べていいのよ」と誘い込む4日目のミートソース。

 ――捨てるには勿体ない。どうにかして食べきってしまいたい。

 それならいっそラザニアにでもするか?
 しかしラザニアは先月食べたばかり。いい加減、違うものが食べたい……。
 考えがまとまらなかった由耀は、鍋に蓋をしてダウンコートを着込み外へ出た。
 これから除雪を始めるのだ。まずは玄関口から綺麗にしていく。
 ザクッ、ザクッ。
 鉄の重たいシャベルで水を含んで固まった雪の塊を、融雪溝にブンと投げ入れる。
 そんな由耀の頭の中では、執筆している小説のプロット、登場人物たちのセリフが入り混じる。
 その中に残ったミートソースの悲鳴さえも聞こえる。

「あの哀れなミートソースを、何とかしなければ!」

 由耀はそんな決意を固めながら、次の雪山を崩し始めた。
 プロットを作るように、創作料理を考える――。
 ザクッ、ザクッ。
 雪山をシャベルで削る音は、白菜を包丁で切るような音に似ていた。
 軽やかに投げ入れた雪はまるで豆腐のように、融雪溝に溶けていく。

「鍋……?」

 そんな様子を眺める由耀の中で、突如何かが煌めく。
 そしてそれは、ビッグバンの如く激しく加速的に広がる。

 ――これしかない!

 加えて最近某投稿サイトで閲覧したファンタジー小説が頭をよぎる。
 決まった。


「そうよ、鍋にしましょう。異世界転生鍋よ!」

 そう叫んだ由耀を、通りかかった近所の奥様が目を点にしながら見つめていた。
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