「氷の天才外科医の激甘な課題添削」 冷徹な外科部長は難攻不落の愛し君だけに甘く狂う
桐生は誰もいないミーティングテーブルの前に立ち、ファイルをそっと置いた。

表紙をめくると、そこには凛の几帳面でまっすぐな文字が敷き詰められている。

担当患者は、術後3日目を迎えた70代の男性。

高血圧と糖尿病の既往があり、術後の不整脈発現が危惧される難症例だ。

​ファイルを開いた桐生の瞳に、ほんの一瞬だけ柔らかい熱が宿る。

​(文字の乱れがない。疲労が限界に達していたはずなのに、1字1字に患者の命を預かる重みが込められている。……本当に、どこまでも愚直で、どこまでも愛おしい女性だ)

​桐生はポケットから愛用の赤ペンを取り出した。

キャップを外す金属音が、静かな室内にカチリと響く。

​「だが、まだ足りない」

​呟く声には、冷酷な指導医としての顔と、1人の女を自分の領域に引きずり込みたいと焦がれる男の顔が複雑に交錯していた。

​
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