優しい死神さんと、空気じゃない私
「あの日……事故の時に君へ乗り移れたのは、君の心がどこまでも清らかだったからだよ。僕はずっと前からそのことを知っていた。だから――君じゃなきゃ、ダメだったんだ」

 玲奈はその言葉に驚き、慌てて「違う違う!」と謙遜するように手を振った。

 死神は愛おしそうに微笑み、小さく首を振る。

「ううん、本当だよ。君のことは、幼い頃からずっと知っているから。まだお母さんに抱っこされて、玄関先で写真を撮ってもらっていたときも。少し大きくなって、小学校の入学式で同じように写真を撮っていたときも……僕はいつも、君のすぐ近くでその光景を見ていたんだ」

 死神の言う『よく知る人物』という言葉に偽りはなく、本当に自分を見守ってくれていたのだと知って、玲奈の胸の奥から、熱いものがこみ上げてきた。

 一筋の涙が頬を伝ったのは、悲しみではなく、底知れない安心と感謝に満ちた嬉し涙だった。

 懐かしそうに思い出を語りながら、死神はゆっくりと立ち上がり、玲奈のそばへと歩み寄っていく。

「幼い頃の君はね、小さな虫の一匹すら、決して踏まないように歩く子どもだった。それどころか、周りの大人や友達が命を軽んじていると、『そんなことしちゃダメ』って懸命に怒っていたね。蝉取りをする男の子に向かって、『捕まえたなら、ちゃんと逃がしてあげてっ』って、自分のことのように泣いていたっけ」
< 21 / 31 >

この作品をシェア

pagetop