初恋メビウス~先に好きになったのは私です~
「私……エヴェリー様のことがずっと好きでした」
一通り礼と、どこで過ごしていたかを話していたリアラの口から、ふいに気持ちが零れた。自分でも驚いたが、彼も虚を突かれたように目を丸くする。
普段の冷静な姿とは違う素の姿がおかしくて苦しくて愛おしくて、リアラは涙をこらえて静かに微笑んだ。
こことは違う世界ですべての記憶をなくしていた一年間でさえ、理想の男性として語っていた。目の前にいるのは、空想の中にしかいないと思っていた男性。
記憶喪失だった名残からだろうか。理想そのものの姿が目の前にあることが不思議にすら感じてしまう。
十三歳も年上で、結婚も控えているはずの男性。
今日はなぜか眼鏡をかけているが、この後すぐ書類仕事が控えているのだろう。
後ろでくくられた鳶色の髪。意志の強そうな眉が今は少し下がり、唇が少し開いている。骨折した影響で少しだけゆがんだ鼻も左頬に走る傷跡ですら素敵に思い、手を伸ばして指で触れてみたいと思ってしまう。
十五歳の時、一目で恋に落ちた。
たくましい体躯、低い声。なのに無骨に見えない優雅な所作。
出会ったときから大人の男だった。年の離れた娘など絶対相手にしてくれない。
でもそれがよくて、なのに苦しくて。遠くから見つめただ思ってるだけでいいと決めていた人。
その強すぎる初恋を、ただ一度だと思える愛を今、何も考えずにぽろりとこぼしてしまったのだ。
とはいえ、これくらいのことは彼も簡単にいなしてしまうだろう。それでいい。いや、そうして欲しい。冗談だと笑ってくれたらそれでいい。
(だって私は、この恋を終わらせるために帰って来たんだから)
ここへ戻ってきたことに意味があるのなら、最愛の人を心から祝福するためだと信じたい。もうお相手を見るのがつらいなんて思わない。
(見ててね、ラン。おっちょこちょいでも、それくらいはちゃんとやってみせるわ)