冷徹社長はトラウマ秘書を愛で包む
 秘書として恥ずかしくない知識は身につけているつもりだが、しょせん付け焼き刃だ。生まれながらの御曹司である暁からすれば至らぬ点があるのかもしれない。焦っていると、暁はいたって真面目な口調で言った。

「他の男が紀沙に注目している」
「問題なさそうですね。御堂社長、本日のガラは政財界のみならず、芸能界の著名人も多数招待されております。最初に主催の方にご挨拶するのがよろしいかと」
「本当はずっと紀沙を見ていたいんだが……」
「ご挨拶もお仕事のうちです、ほら!」
「はあ……一番苦手だ……」

 とはいえホールに着くやいなや暁は御堂製鉄の社長の顔になり、ガラの主催者である財界の重鎮と挨拶を交わし始めた。

 紀沙も秘書として斜め後ろに控え、場の空気を壊さない程度の微笑を浮かべる。暁の長身で隠されてしまうくらいの気配。そこがいつもの定位置だ。

 だが今日は、重鎮の目線がこちらへ向けられた。

「先ほどから思っておりましたが、とてもお美しい方ですな。こうした場では初めてお目にかかります。もしや、御堂様の婚約者ですか」

 紀沙は無言で目を瞬かせた。美しいとは社交に必須のお世辞だろう。けれどこの重鎮とは以前にも何度か会っていたのに、初めて声をかけられた。

(し、しかも婚約者って言った!?)

 上手く返事をできないでいると、ぐっと肩を引き寄せられる。今宵一番の笑顔を浮かべた暁だった。

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