E組の補習は、恋の予習。~赤点ガールは、先生の「特別」になりたい~

Ⅲ

放課後の教室で、私は一人、机に向かってシャーペンを走らせていた。
ノートにはびっしりと歴史の年号や用語が書き込まれている。いつのまにか、私の筆箱にはたくさんの色ペンが増え、教科書は付箋だらけになっていた。

あの日、職員室の前で見た光景が、まだ心のどこかにチクリと棘のように刺さっている。
美里ちゃんと楽しそうに話していた伊織先生の笑顔。そして、美里ちゃんの「92点」という数字。
87点だって私にとっては大躍進だったのに、美里ちゃんの隣に並ぶには全然足りなかった。

「……くやしいっ!」

独り言を呟きながら、私は自分の頬を軽く両手で叩き、気合を入れ直す。
別に、美里ちゃんを恨んでいるわけじゃない。彼女はもともと頭が良いし、努力家だ。
だけど――。
いつも「その他大勢」で、何をやっても中途半端だった私が、初めて「誰かに負けたくない」「あの人の一番になりたい」って本気で思えた相手なのだ。

「内山、最近すごい真面目じゃん。なんか恋でもしてるの?」

休み時間にふと友達に冷やかされて、私は盛大にむせた。

「してない、してないから!」

慌てて否定したけれど、真っ赤になった顔のせいで、余計に怪しまれた。
恋、なのだろうか。……これが?
分からない。でも、伊織先生の授業をもっと理解したいし、テストが返ってきたとき、今度こそ先生に一番最初に「すごいね」って頭を撫でてもらいたい。その気持ちだけは嘘じゃなかった。

それからの私は、まさに憑かれたように社会科の勉強に没頭した。
授業中は一言一句聞き逃さないように伊織先生の姿を目で追い、分からないところがあれば恥ずかしがらずに職員室へ質問しに行った。
最初は「お、今日も熱心だね」と驚いていた伊織先生も、私の真剣な眼差しに気付いたのか、毎回丁寧に、時に少し嬉しそうな顔をして教えてくれるようになった。

「内山さん、最近すごく目が真剣だよね。その調子なら、期末テストも期待できるんじゃない?」
ある日の質問終わりの帰り際、伊織先生がふと、優しい声でそう言ってくれた。

その一言だけで、これまでの疲れが一気に吹き飛ぶ。
(期待してて、先生……!)

期末テストまで、あと一週間。
私の心は、不安よりも「先生を驚かせたい」という熱い期待でいっぱいだった。
学年トップの影になんて負けない。私は、私だけの100点を掴み取るために、今日も机に向かう――。
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