双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
プロローグ・重なった心臓の音
星見の塔から帰って数週間が過ぎた。
「ん……朝……え?」
――温かい?
朝日の眩(まぶ)しさに目を覚ました私は、いつもの寝室で、いつもと違う熱を背後に感じて、少なからず動揺する。
だが、規則正しい寝息を耳にして、すぐに思い出した。
『契約結婚じゃない。ちゃんと私を選んでくれ』
そう告げられてから、二カ月。
執務やルイゾン様の遠征や――なにより私の心の準備が整っていないことからかなりの時間を要したけれど、昨夜、ようやく本当の意味でルイゾン様の妻となったのだ。
結婚当初から、広すぎるベッドの端と端に寝ていた私とルイゾン様だったが、今朝はベッドの中央に、背中から抱えられるようにくっついている。
ルイゾン様はまだ目覚めていないようだ。見えないけれど、その金髪が朝日に輝いていることは想像に難くない。
――いつも以上に振り向けない……!
あろうことか私は、ルイゾン様の腕を枕代わりにして眠ったらしい。横向きになった私の首の下に、逞しい腕が伸びている。
状況を把握した途端、冬だというのに頬が熱くなった。
――どれくらいこうしていたのかしら。ルイゾン様の腕をしびれさせてしまったら大変だわ。
照れながら、私はゆっくりと体を浮かそうとした。
だが、すぐに腕と腕に挟まれる。
「起きていたのか」
気のせいか、まだ声が甘い。
「今……今、起きました」
背中を向けたままそう答えると、ルイゾン様は私のうなじに唇を落とした。
――ひゃ!
思わず身を固くすると、ため息とともに問いかけられる。
「痛むところはないか」
気遣いの意味を理解すると同時に、記憶が一気に蘇(よみがえ)った。
――い、痛むところ……! 多分、ないけど……! 優しくしてもらったから……!
恥じらいすぎて言葉を発することができない私をどう思ったのか、ルイゾン様は私の髪を後ろからそっと撫でる。
あの山で切り裂かれて以来、今も肩ほどの長さしかない黒髪だ。
『夜空は君の髪の色だ』
星見の塔でも、昨夜のこのベッドでも、ルイゾン様は何度もそう言って口付けた。
この国では忌み嫌われる『悪魔(ディアブル)の黒髪』に。
こぼれ落ちたひと筋の涙をルイゾン様は指でそっと拭い、そのまま私に覆いかぶさった。いつもと違って少し乱れたルイゾン様の金髪を、やはり太陽のようだと思って見上げたことを覚えている。
『ジュリア、愛している』
何度も何度も、私の名前を呼んでそう言った。
まるで本当にここにいるのを確かめるみたいに。
触れられた場所がどこもかしこも熱くなって、でも、一番熱かったのはルイゾン様の手だ。怖くないかと尋ねられた時は、首を横に振るのが精いっぱいだった。
そんなことを瞬時に思い出した私は、ルイゾン様の質問に答える余裕がない。息をするのがやっとで、身動きもできなかった。
ルイゾン様が心配そうな声を出す。
「ジュリア? やはりどこか具合が悪いのか?」
「いいえ……その……」
私は頑張って口を開いた。
「痛むところはありません……でも」
「でも?」
「……恥ずかしいです」
ルイゾン様の声に笑いが含まれる。
「かわいいな」
――やめてください! もっと照れます!
だんだん日が高くなってきたことに気付いた私は、切り替えるように呼吸を整えた。
王であるルイゾン様の時間はとても貴重だ。特に朝は分刻みで動いていると言っていい。
――送り出すのも、つ、妻の務めですもの。
名残惜しい気持ちはあったが、私はルイゾン様の手に自分の手をそっと重ねる。
「私なら大丈夫ですわ。ですから、ルイゾン様。そろそろお支度を――」
最後まで言う前に、腕の中で強引にぐいっと向きを変えられた。
思いがけず正面から向き合う形になって、私はルイゾン様の顔をまじまじと見つめる。
恥ずかしくて照れるのに、魅入られたように目が離せないのだ。
晴れ渡った青空を切り取ったような瞳は甘い眼差しだが、意志の強そうな眉は男らしい。大人の色香を漂わせているキリッとした口元が、やがてゆっくりと動いた。
「まだいい」
同時に腕を伸ばされ、鍛錬を欠かさない逞しい胸の中に閉じ込められる。
「まだこうしている」
駄々をこねるように言うルイゾン様の髪から、ふわりと香りが広がった。いつもつけている香油と、ルイゾン様自身の優しい匂いだ。
「支度なんかどうでもいい。離さない、と昨日言ったはずだが?」
――確かに……でも……それってこういうことですか?
問いかけるように視線を上げれば、不穏なくらい色気のある笑みを浮かべているルイゾン様と目が合う。
「諦めろ」
なにを、と聞く前に、口付けを落とされた。
不意打ちに心臓をドキドキさせていると、ルイゾン様の腕の中にまた閉じ込められる。
「私が気持ちを伝えるまで、どれほど我慢していたと思っている?」
――ルイゾン様が我慢?
意外な告白にもう一度顔を上げたら、予想と違って少年のように切ない表情を浮かべたルイゾン様がいた。
そんなルイゾン様を見たのは、初めてだ。
「もう端と端では寝かせない。これから、ずっとだ」
そして、再び、長い長い口付けを落とす。
ルイゾン様の心臓の音は、その間ずっと私の心臓の音に重なって響いていた。
「ん……朝……え?」
――温かい?
朝日の眩(まぶ)しさに目を覚ました私は、いつもの寝室で、いつもと違う熱を背後に感じて、少なからず動揺する。
だが、規則正しい寝息を耳にして、すぐに思い出した。
『契約結婚じゃない。ちゃんと私を選んでくれ』
そう告げられてから、二カ月。
執務やルイゾン様の遠征や――なにより私の心の準備が整っていないことからかなりの時間を要したけれど、昨夜、ようやく本当の意味でルイゾン様の妻となったのだ。
結婚当初から、広すぎるベッドの端と端に寝ていた私とルイゾン様だったが、今朝はベッドの中央に、背中から抱えられるようにくっついている。
ルイゾン様はまだ目覚めていないようだ。見えないけれど、その金髪が朝日に輝いていることは想像に難くない。
――いつも以上に振り向けない……!
あろうことか私は、ルイゾン様の腕を枕代わりにして眠ったらしい。横向きになった私の首の下に、逞しい腕が伸びている。
状況を把握した途端、冬だというのに頬が熱くなった。
――どれくらいこうしていたのかしら。ルイゾン様の腕をしびれさせてしまったら大変だわ。
照れながら、私はゆっくりと体を浮かそうとした。
だが、すぐに腕と腕に挟まれる。
「起きていたのか」
気のせいか、まだ声が甘い。
「今……今、起きました」
背中を向けたままそう答えると、ルイゾン様は私のうなじに唇を落とした。
――ひゃ!
思わず身を固くすると、ため息とともに問いかけられる。
「痛むところはないか」
気遣いの意味を理解すると同時に、記憶が一気に蘇(よみがえ)った。
――い、痛むところ……! 多分、ないけど……! 優しくしてもらったから……!
恥じらいすぎて言葉を発することができない私をどう思ったのか、ルイゾン様は私の髪を後ろからそっと撫でる。
あの山で切り裂かれて以来、今も肩ほどの長さしかない黒髪だ。
『夜空は君の髪の色だ』
星見の塔でも、昨夜のこのベッドでも、ルイゾン様は何度もそう言って口付けた。
この国では忌み嫌われる『悪魔(ディアブル)の黒髪』に。
こぼれ落ちたひと筋の涙をルイゾン様は指でそっと拭い、そのまま私に覆いかぶさった。いつもと違って少し乱れたルイゾン様の金髪を、やはり太陽のようだと思って見上げたことを覚えている。
『ジュリア、愛している』
何度も何度も、私の名前を呼んでそう言った。
まるで本当にここにいるのを確かめるみたいに。
触れられた場所がどこもかしこも熱くなって、でも、一番熱かったのはルイゾン様の手だ。怖くないかと尋ねられた時は、首を横に振るのが精いっぱいだった。
そんなことを瞬時に思い出した私は、ルイゾン様の質問に答える余裕がない。息をするのがやっとで、身動きもできなかった。
ルイゾン様が心配そうな声を出す。
「ジュリア? やはりどこか具合が悪いのか?」
「いいえ……その……」
私は頑張って口を開いた。
「痛むところはありません……でも」
「でも?」
「……恥ずかしいです」
ルイゾン様の声に笑いが含まれる。
「かわいいな」
――やめてください! もっと照れます!
だんだん日が高くなってきたことに気付いた私は、切り替えるように呼吸を整えた。
王であるルイゾン様の時間はとても貴重だ。特に朝は分刻みで動いていると言っていい。
――送り出すのも、つ、妻の務めですもの。
名残惜しい気持ちはあったが、私はルイゾン様の手に自分の手をそっと重ねる。
「私なら大丈夫ですわ。ですから、ルイゾン様。そろそろお支度を――」
最後まで言う前に、腕の中で強引にぐいっと向きを変えられた。
思いがけず正面から向き合う形になって、私はルイゾン様の顔をまじまじと見つめる。
恥ずかしくて照れるのに、魅入られたように目が離せないのだ。
晴れ渡った青空を切り取ったような瞳は甘い眼差しだが、意志の強そうな眉は男らしい。大人の色香を漂わせているキリッとした口元が、やがてゆっくりと動いた。
「まだいい」
同時に腕を伸ばされ、鍛錬を欠かさない逞しい胸の中に閉じ込められる。
「まだこうしている」
駄々をこねるように言うルイゾン様の髪から、ふわりと香りが広がった。いつもつけている香油と、ルイゾン様自身の優しい匂いだ。
「支度なんかどうでもいい。離さない、と昨日言ったはずだが?」
――確かに……でも……それってこういうことですか?
問いかけるように視線を上げれば、不穏なくらい色気のある笑みを浮かべているルイゾン様と目が合う。
「諦めろ」
なにを、と聞く前に、口付けを落とされた。
不意打ちに心臓をドキドキさせていると、ルイゾン様の腕の中にまた閉じ込められる。
「私が気持ちを伝えるまで、どれほど我慢していたと思っている?」
――ルイゾン様が我慢?
意外な告白にもう一度顔を上げたら、予想と違って少年のように切ない表情を浮かべたルイゾン様がいた。
そんなルイゾン様を見たのは、初めてだ。
「もう端と端では寝かせない。これから、ずっとだ」
そして、再び、長い長い口付けを落とす。
ルイゾン様の心臓の音は、その間ずっと私の心臓の音に重なって響いていた。