双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
1、愛の力ってすごいですね
もともと、契約結婚で始まった私とルイゾン様の関係はごく一部の人たちにしか知られていない。だから距離が縮まったとしても、誰にも気付かれない……はずだった。
全然、そんなことなかった。
宮殿で働くほぼすべての人たちに、私たちの変化は伝わった。ルイゾン様の態度が、あまりにも今までと違いすぎるからだ。
いや、態度というか、その技量がさらに研ぎ澄まされたと言うべきか。
たとえば、魔獣討伐。
『王族の金髪』を持つルイゾン様は、特殊能力『観察眼』を持つ上に、属性問わず上級魔法を使いこなし、身体能力も桁外れだ。魔法で隙をつき、剣でトドメを刺すという、魔獣に対する理想の戦法を誰よりも使いこなしている。
この国で、魔獣討伐においてルイゾン様の右に出る者はいない。だが最近は、以前にも増して仕留めるのが速い。
本人曰く――私のおかげで。
「ジュリア! 今、戻った!」
今日も、遠征に行ったはずのルイゾン様が、大きな声で名前を呼びながら私の執務室に入ってくる。
「ル、ルイゾン様?」
私は驚きを隠せずに出迎えた。
――出立してまだ五日も経っていませんが!?
国王陛下の予期せぬ訪れに、侍女頭のマリヴォンヌやメイドのサニタが慌てたように動き出す。
満面の笑みを浮かべたルイゾン様は、騎士服のまま私を抱きしめた。
「ああ、ジュリアだ……本物のジュリアだ」
おずおずと背中に手を回した私は、無事を喜びながらも、小声で確認する。
「おかえりなさいませ……あの、ですが、お帰りは一カ月後では……」
今回の遠征の目的はラプローと呼ばれる、額の真ん中に螺旋状の角があるウサギ型の魔獣を討つことだ。すばしっこい上に、群れで行動するため数が多い。王都から離れた街道沿いに大群が現れたと聞いていたので、今ここにルイゾン様がいることが信じられなかった。
だが、ルイゾン様は屈託のない様子で答える。
「全部倒したから戻ってきた」
――全部……全部!?
早めに切り上げたとかではないのが、恐ろしいところだ。
「どんなに早く見積もっても、二週間はかかると言われていませんでした?」
それに加えて往復の時間もいる。
だがルイゾン様はあっさりと告げた。
「ジュリアに会いたかったからな。いつもより強めの魔法で一気に弱らせた」
――簡単におっしゃいますけど、それって誰にでもできることじゃありませんよね?
かわいらしい見た目と言えなくもないラプローだが、魔獣は魔法との相性が悪い。一体を弱らせるだけでも大変なのだ。
「いけないか?」
「いいえ、まさか!」
私は慌てて否定した。そう、いけないことはない。言うことがあまりにも常人離れしているので、無理をしていないか心配になるだけだ。
けれど、目の前のルイゾン様はあまりにも朗らかだ。
「ジュリアを抱きしめるためなら、どんな労力も厭(いと)わない。ああ、安心しろ。昨日はちゃんと宿屋に泊まり、風呂にも入っている。汚れていたらジュリアに悪いだろう?」
――気持ちはありがたいけれど、今、おっしゃることではないのでは!?
どう返事をしていいかわからない私は、ルイゾン様の腕の中で固まっている。しかし、帰宅の抱擁にしては明らかに時間が長い。
「……ルイゾン様、そろそろ」
耐えきれず小声でたしなめると、ルイゾン様は残念そうに体を離した。
「わかったわかった、続きは後にしよう」
「だからっ……そういうことを、堂々とおっしゃらないでください」
強気に言ってみたものの、頬はきっと赤くなっていて、我ながら説得力がない。
後ろを向いていたマリヴォンヌとサニタがさりげなくこちらに向き直った。
どこでもこの調子なので、私たちの仲がさらに親密になったと宮殿中の使用人たちが噂するようになったのも無理はない。結婚したてならともかく、二年目も半分以上過ぎた今、なぜ、と皆が思うのもわかるからだ。願わくは「なぜ」の理由を掘り下げないでもらいたい。
私は、こほん、とわざとらしい咳(せき)をして、ルイゾン様にソファを勧める。
「討伐お疲れ様でした。お茶でもいかがですか?」
「いいね。いただこう」
その言葉で、マリヴォンヌとサニタがテキパキと準備を始めた。
だが、カップが置かれる前に、またノックの音が響く。サニタが開けると、ルイゾン様の護衛騎士ピエリックが入ってきた。
ピエリックは、ルイゾン様を見るなり叫ぶ。
「ルイゾン様! やはりこちらでしたか! レスターが必死になって捜してましたよ」
レスターはルイゾン様の右腕として仕える文官だ。留守にしていたルイゾン様に、溜まった用事があるのだろう。
だが、ルイゾン様の答えは素っ気ない。
「なんだ、ピエリックか。レスターならもう少し放っておけ」
ピエリックはルイゾン様のそばに近付き、念を押すように付け加えた。
「ちゃんと伝えましたからね!」
どこか微(ほほ)笑(え)ましいやり取りを見守っていた私は、ふと気付く。今回の討伐はピエリックも一緒だったのだが、溌(はつ)剌(らつ)としたルイゾン様に比べ、顔色が白く、暗赤色の髪も乱れているのだ。
「ピエリック、体調でも悪いの?」
思わず尋ねると、力ない笑みが返される。
「大丈夫です。単に体力が尽きただけなんで」
「それって大丈夫じゃないわよね……?」
ピエリックは慌てたように言った。
「大丈夫です! 最近のルイゾン様に、凡人である俺たちがついていけないだけなんで! 俺だけでなく、同行した騎士団全員がぐったりしています!」
――だから大丈夫じゃないってば!
全然、そんなことなかった。
宮殿で働くほぼすべての人たちに、私たちの変化は伝わった。ルイゾン様の態度が、あまりにも今までと違いすぎるからだ。
いや、態度というか、その技量がさらに研ぎ澄まされたと言うべきか。
たとえば、魔獣討伐。
『王族の金髪』を持つルイゾン様は、特殊能力『観察眼』を持つ上に、属性問わず上級魔法を使いこなし、身体能力も桁外れだ。魔法で隙をつき、剣でトドメを刺すという、魔獣に対する理想の戦法を誰よりも使いこなしている。
この国で、魔獣討伐においてルイゾン様の右に出る者はいない。だが最近は、以前にも増して仕留めるのが速い。
本人曰く――私のおかげで。
「ジュリア! 今、戻った!」
今日も、遠征に行ったはずのルイゾン様が、大きな声で名前を呼びながら私の執務室に入ってくる。
「ル、ルイゾン様?」
私は驚きを隠せずに出迎えた。
――出立してまだ五日も経っていませんが!?
国王陛下の予期せぬ訪れに、侍女頭のマリヴォンヌやメイドのサニタが慌てたように動き出す。
満面の笑みを浮かべたルイゾン様は、騎士服のまま私を抱きしめた。
「ああ、ジュリアだ……本物のジュリアだ」
おずおずと背中に手を回した私は、無事を喜びながらも、小声で確認する。
「おかえりなさいませ……あの、ですが、お帰りは一カ月後では……」
今回の遠征の目的はラプローと呼ばれる、額の真ん中に螺旋状の角があるウサギ型の魔獣を討つことだ。すばしっこい上に、群れで行動するため数が多い。王都から離れた街道沿いに大群が現れたと聞いていたので、今ここにルイゾン様がいることが信じられなかった。
だが、ルイゾン様は屈託のない様子で答える。
「全部倒したから戻ってきた」
――全部……全部!?
早めに切り上げたとかではないのが、恐ろしいところだ。
「どんなに早く見積もっても、二週間はかかると言われていませんでした?」
それに加えて往復の時間もいる。
だがルイゾン様はあっさりと告げた。
「ジュリアに会いたかったからな。いつもより強めの魔法で一気に弱らせた」
――簡単におっしゃいますけど、それって誰にでもできることじゃありませんよね?
かわいらしい見た目と言えなくもないラプローだが、魔獣は魔法との相性が悪い。一体を弱らせるだけでも大変なのだ。
「いけないか?」
「いいえ、まさか!」
私は慌てて否定した。そう、いけないことはない。言うことがあまりにも常人離れしているので、無理をしていないか心配になるだけだ。
けれど、目の前のルイゾン様はあまりにも朗らかだ。
「ジュリアを抱きしめるためなら、どんな労力も厭(いと)わない。ああ、安心しろ。昨日はちゃんと宿屋に泊まり、風呂にも入っている。汚れていたらジュリアに悪いだろう?」
――気持ちはありがたいけれど、今、おっしゃることではないのでは!?
どう返事をしていいかわからない私は、ルイゾン様の腕の中で固まっている。しかし、帰宅の抱擁にしては明らかに時間が長い。
「……ルイゾン様、そろそろ」
耐えきれず小声でたしなめると、ルイゾン様は残念そうに体を離した。
「わかったわかった、続きは後にしよう」
「だからっ……そういうことを、堂々とおっしゃらないでください」
強気に言ってみたものの、頬はきっと赤くなっていて、我ながら説得力がない。
後ろを向いていたマリヴォンヌとサニタがさりげなくこちらに向き直った。
どこでもこの調子なので、私たちの仲がさらに親密になったと宮殿中の使用人たちが噂するようになったのも無理はない。結婚したてならともかく、二年目も半分以上過ぎた今、なぜ、と皆が思うのもわかるからだ。願わくは「なぜ」の理由を掘り下げないでもらいたい。
私は、こほん、とわざとらしい咳(せき)をして、ルイゾン様にソファを勧める。
「討伐お疲れ様でした。お茶でもいかがですか?」
「いいね。いただこう」
その言葉で、マリヴォンヌとサニタがテキパキと準備を始めた。
だが、カップが置かれる前に、またノックの音が響く。サニタが開けると、ルイゾン様の護衛騎士ピエリックが入ってきた。
ピエリックは、ルイゾン様を見るなり叫ぶ。
「ルイゾン様! やはりこちらでしたか! レスターが必死になって捜してましたよ」
レスターはルイゾン様の右腕として仕える文官だ。留守にしていたルイゾン様に、溜まった用事があるのだろう。
だが、ルイゾン様の答えは素っ気ない。
「なんだ、ピエリックか。レスターならもう少し放っておけ」
ピエリックはルイゾン様のそばに近付き、念を押すように付け加えた。
「ちゃんと伝えましたからね!」
どこか微(ほほ)笑(え)ましいやり取りを見守っていた私は、ふと気付く。今回の討伐はピエリックも一緒だったのだが、溌(はつ)剌(らつ)としたルイゾン様に比べ、顔色が白く、暗赤色の髪も乱れているのだ。
「ピエリック、体調でも悪いの?」
思わず尋ねると、力ない笑みが返される。
「大丈夫です。単に体力が尽きただけなんで」
「それって大丈夫じゃないわよね……?」
ピエリックは慌てたように言った。
「大丈夫です! 最近のルイゾン様に、凡人である俺たちがついていけないだけなんで! 俺だけでなく、同行した騎士団全員がぐったりしています!」
――だから大丈夫じゃないってば!