その花が咲く頃に【第一幕】
其ノ壱 金盞花
いつか、報われる。
いつか、認めてもらえる。
いつか、きっと。
…幸せになれる。
――
先代の渡り人。遠き国から持って帰ってきたという米を、自らの手で育てるようになってから、長い月日が経ち、それも村の当たり前の生活になって毎日を過ごしている。
ただ、農作の時代、年々支配人怯える人間が増えていた。
私は親のいない孤児で、親が死んで村の住人に育てられた。
育てられたと聞いても、扱いは人間以下で、常に虐げられていた。
普通の生活など当たり前になく、ただ汚れた生口として一日中身を粉にして働き続ける毎日だった。
名前など当然無い。
物心つくよりも前に、母がこの世を去り、あったはずの名前はもう思い出せない。
そんなある日、村の当主に呼び出され、今度はどんな理不尽を受けるのか、どのくらい暴力を受けるのかなど、少しの感情もなく考えていた。
けれど、今回はそういうものではないらしい。
「貴様、村の祭りについては知ってるな?」
「…はい。村の安泰と繁栄を願う山の主への祭、ですよね…」
「ああ。何をするべきと考える」
「準備、でしょうか。供物や装飾の…」
「貴様、今年で幾つを数える」
「十と、五つです」
「そうか。ならちょうどいい。貴様が供物だ」
「生贄、ということでしょうか…」
「いつ私が貴様に、私に問うて良いと言った。それ以外にあるまい。これだから生口は。使えんな」
「申し訳、ありません…」
「お前、こいつを牢に入れて監視しろ」
「かしこまりました」
生贄。
ああ、よかった。
この生活から抜け出せる。
そう思うと吹き曝しの牢も苦では無い。
前に、私と同じ生口の身分だった子が生贄にされた。彼女は身一つで山に登り、翌週、川に死体として流れてきた。
私も同じ道を行くのだろうか。そうだったら、誰にも見つからずに土に還りたいな。
「決行は三日後、逃げるも自害するも勝手だが、他の生口が代わりになることをゆめゆめ忘れるでないぞ」
「かしこまりました」
「行け」
当主様の側近に縄で手を縛られ、見張りのいる吹き曝しの牢に放り込まれた。
それでも私は何も感じず、ただじっとしてその日を待つ。
時期は冬。もう少しで年も明ける。雪の深い極寒の夜は乾燥した草で編んだ服では寒すぎる。
小さい時は毛皮の一枚でもあればと身を小さく丸めていたが、今となってはもう慣れて、ただどこも見ず、何も考えず、当日を待つ。
いつか、認めてもらえる。
いつか、きっと。
…幸せになれる。
――
先代の渡り人。遠き国から持って帰ってきたという米を、自らの手で育てるようになってから、長い月日が経ち、それも村の当たり前の生活になって毎日を過ごしている。
ただ、農作の時代、年々支配人怯える人間が増えていた。
私は親のいない孤児で、親が死んで村の住人に育てられた。
育てられたと聞いても、扱いは人間以下で、常に虐げられていた。
普通の生活など当たり前になく、ただ汚れた生口として一日中身を粉にして働き続ける毎日だった。
名前など当然無い。
物心つくよりも前に、母がこの世を去り、あったはずの名前はもう思い出せない。
そんなある日、村の当主に呼び出され、今度はどんな理不尽を受けるのか、どのくらい暴力を受けるのかなど、少しの感情もなく考えていた。
けれど、今回はそういうものではないらしい。
「貴様、村の祭りについては知ってるな?」
「…はい。村の安泰と繁栄を願う山の主への祭、ですよね…」
「ああ。何をするべきと考える」
「準備、でしょうか。供物や装飾の…」
「貴様、今年で幾つを数える」
「十と、五つです」
「そうか。ならちょうどいい。貴様が供物だ」
「生贄、ということでしょうか…」
「いつ私が貴様に、私に問うて良いと言った。それ以外にあるまい。これだから生口は。使えんな」
「申し訳、ありません…」
「お前、こいつを牢に入れて監視しろ」
「かしこまりました」
生贄。
ああ、よかった。
この生活から抜け出せる。
そう思うと吹き曝しの牢も苦では無い。
前に、私と同じ生口の身分だった子が生贄にされた。彼女は身一つで山に登り、翌週、川に死体として流れてきた。
私も同じ道を行くのだろうか。そうだったら、誰にも見つからずに土に還りたいな。
「決行は三日後、逃げるも自害するも勝手だが、他の生口が代わりになることをゆめゆめ忘れるでないぞ」
「かしこまりました」
「行け」
当主様の側近に縄で手を縛られ、見張りのいる吹き曝しの牢に放り込まれた。
それでも私は何も感じず、ただじっとしてその日を待つ。
時期は冬。もう少しで年も明ける。雪の深い極寒の夜は乾燥した草で編んだ服では寒すぎる。
小さい時は毛皮の一枚でもあればと身を小さく丸めていたが、今となってはもう慣れて、ただどこも見ず、何も考えず、当日を待つ。