虚無に咲く華
車は都内の高層マンションの地下駐車場へ入った。
大河が車を停めると、裕也は先に降り、後部座席のドアを開けた。
「着いたぞ」
女は動かない。
「……歩けるか?」
返事も反応もなかった。
「しゃあねぇな」
裕也は身をかがめ、女の背中と膝の裏に腕を回した。
抱き上げた瞬間、その身体の軽さに眉をひそめる。
「……軽すぎんだろ」
女は抵抗しなかった。
大河が先回りしてエレベーターを呼ぶ。
「裕也さん、こちらです」
三人が乗り込むと、大河は最上階のボタンを押した。
静かな機械音とともにエレベーターが上昇する。
女は裕也の腕の中で身を縮め、顔を伏せていた。
やがて到着を知らせる電子音が鳴った。
扉の向こうには、広い玄関ホールが続いている。
裕也の自宅は、最上階のワンフロアを丸ごと使った造りになっていた。
大河が玄関の扉を開け、裕也が女を抱えたまま中へ入る。
広々としたリビングには、大きな革張りのソファーと低いガラスのテーブル。
壁一面の窓からは、都内の夜景が広がっていた。
裕也は女をそっと床に下ろした。
「ほら、入れよ」
女はゆっくりと壁際へ移動すると、その場にしゃがみ込んだ。
両膝を抱え、顔を伏せる。
裕也は少し離れたところから、その姿を見下ろした。
「……怖いか?」
返事はない。
「……怖いだろうな」
裕也はそれ以上近づかなかった。
「今、ちょっと人呼ぶから。そこで待ってろよ」
そう言って、携帯電話を取り出した。
大河は壁際の女へ目を向けた。
「裕也さん、あのままで大丈夫でしょうか」
「あ?」
「床も冷たいですし……」
「だったら、お前が座らせてやれよ」
大河は女へ近づき、少し離れたところで腰を落とした。
「……こちらのソファーに座りませんか?」
女は顔を上げない。
大河がもう一歩近づくと、女は身体を縮め、壁に背中を押しつけた。
大河は足を止めた。
「……失礼しました」
それ以上近づかず、ソファーからクッションを一つ取った。
「ここに置いておきます」
女の少し手前にクッションを置き、静かに離れる。
裕也はその様子を見て、鼻で笑った。
「お前、案外優しいんだな」
「……普通のことです」
「そうかよ」